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私と目が合い、先輩は一瞬だけ驚いた顔をしたように見えたもののーー特に慌てた様子などもなく、そのまま私の横を通り過ぎ、階段を降りていった。 挨拶してもらえなかったな……って、そんなことはともかくとして…… 先輩が私を横切っていった時、彼の口元が何故か怪しく笑っていたのは、見間違いではなかったと思う……。 だけど、さっきの怒鳴り声は先輩の声ではなかった。 となると、先輩が出てきた教室にはまだ誰かがいるのだろうか。 柱の陰からチラッと顔を出すと、先輩のクラスーー三年A組の戸が開いていた。恐らく、先輩は今あそこから出てきたのだ。 教室に電気は点いていなくて、まだ誰かいるのかどうかは分からなかったけれど、確かめるには何となく怖くて……私はA組とは反対方向の突き当たりにある図書室に駆け足で入り、課題のノートを回収すると、そのまま階段を降りて玄関へと向かった。 玄関に、御崎先輩の姿はなかった。 ーーそれにしても先輩、誰と何を話していたんだろう……。怒鳴っていたのは、男性……恐らく教師ではなくて生徒の誰かだと思うけれど……。 そんなことを考えながら、私は薄暗い道を歩きながら、家に帰るために駅に向かった。 その時の時間は、ちょうど二十時になるくらいだったーー。
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