つまらない男

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 ―――茶渋が付いている。飲んでいたのは紅茶か?  俺はタワシで茶渋をこすり取り始め、ふと、捨てるものを洗っているという馬鹿さに気がついた。  折角キレイになったのだから、とマグカップを食器カゴに置き、乾かす。  ソファに掛けられた、赤いチェックのブランケットを手にする。  あぁ、映画をDVDで観ようと彼女がレンタルしてきては…ソファに並んで座らされ、一緒にこのブランケットを膝にかけられていた。  ただ、俺は暖かさと疲れですぐに寝落ちしていたから、どんな映画があったかも記憶にないが…。  そういえば先週だったが…やはりDVDを観て寝落ちしている時、かすかな泣き声で目が覚めたんだ。  菜々は泣いていた。膝を立てて、このブランケットに顔を埋めて…。  あれは、映画を観て泣いているのだと思っていたが……まさか違ったのか?  映画の感想も言い合えない俺に、絶望を感じていたのか?  しばらく考え込んだ後ブランケットをたたみ、またソファに戻す。  所々に残る菜々の形跡。  それを辿っていくにつれて募る菜々への想い。  ―――菜々への想いはその程度。  違う、俺だってちゃんと菜々を愛していた。  だけど菜々が不安になるのも無理はない、ということに気がついた。  菜々を尊重しているつもりで、全く出来ていなかったのだから。  そもそも俺の想いを、意志をちゃんと伝えていなかった。  愛している、とも、結婚しよう、とも。  俺は思わず携帯を手に取った。  しかし、今更伝えたところで何になる?  余計に菜々を苦しめるだけじゃないか?  結局のところ、自分が楽になりたいだけだ。正当化したいだけだ。  画面をしばらく眺め、そっとローテーブルの上に置いた。
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