つまらない男

4/12
前へ
/12ページ
次へ
「あっ……すみません」  磯山は慌てて自分のデスク横のゴミ箱にプリンを捨てるが、今日は金曜日、ゴミの回収は月曜まで無い。  俺は注意したい気持ちをぐっと堪えて、自分のデスクに戻る。  これ以上言うと口煩い上司だと思われてしまう。  あぁ、しまった。  考え事をしていたから、淹れたコーヒーを給湯室へ忘れてきてしまった。  その事に気がついた瞬間、「塚原課長代理、お忘れ物です」と『ローファーの似合う女性』が俺のカップを運んできた。  彼女は総務課3年目の春野菜々。高校生と言われても納得できそうな容姿だ。 「あぁ、ありがとう」 「あれ、塚原課長代理。頬っぺたのところ、赤くなっていますよ。虫刺されですか?」  カップを置いた春野菜々は、自分の頬を指さした。 「あぁ、これは……」俺は咄嗟に左頬を手で覆った。 「掻いちゃダメですよ!余計に痒くなりますから!冷やしますか?給湯室の冷凍庫に保冷剤が…あ、給湯室のお掃除ありがとうございます。お茶の補充にいったら、シンクやコンロがピカピカになっていました!もしかして新製品の検討ですか!?我が社からヒット商品が販売される前は社内が綺麗になるって噂ですよ!お仕事頑張ってください!」  春野菜々は言いたい事を言い、満面の笑顔で去った後戻ってくることはなかった。  そう、仕事でもプライベートでも考え事をしている時はついどこかを掃除してしまうのは俺の癖だ。それはどうやらウチの課以外の課にも知れ渡っているようだな。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

31人が本棚に入れています
本棚に追加