つまらない男

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「私が泣いても怒っていても、その原因を知ろうとはせず謝るだけ。『どうしたらこの状況が収まるか』ばかりを考えて」  ―――謝って済むのであれば、それに越したことはないではないか。 「デートの時だって私がどれだけ無理して背伸びしていても、その事に気付いてもくれなくて」  ―――化粧が濃い、なんて言ったら機嫌悪くなるだろう。 「智成さんがセッティングしてくれるデートは、私が喜びそうなことじゃなくて、今までの彼女さんを基準としたデート」  ―――記念日デートでの食事の予約は、流行りを押さえるようにしていた。確かに菜々と夜景とカクテルはミスマッチだったが、それなりに喜んでいたではないか。 「私は智成さんのこと、何でも知っています!箸の持ち方から身体の洗い方まで!だけど、智成さんは私が左利きだって事すら知らない…だって、私を見てはくれていないから」  ―――えっ!俺、どこから洗っているんだ?いや、あれ?左利き?そうだっけ。  1年間も一緒にいて『左利き』を知らなかった、という事実に血の気が引いた。 「私が智成さんのことを尋ねても智成さんは答えるだけで私には何も聞いてくれない、私への興味は全くないんだなって気づかされる会話。ひょっとしたら今までの彼女さん達だって同じ気持ちだったんじゃないですか!?知っていました!?私、フレンチよりも和食派なんです!」  菜々の希望など、聞いたことも無かった。当然、今までの彼女もだ。  自分で調べてさっさと決めたほうが早いからだ。  仕事を優先しつつも、きちんと彼氏の役割を果たしていると満足していた。 「だからといって……もっと早く俺にそう言えばよかったのではないのか?」  別れの選択をする前に伝えてくれれば、と思う。
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