つまらない男

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「私は…!智成さんが好きだった。入社した時からずっと憧れていて、だけど智成さんの周りにはいつもキレイな方がいて……付き合うことが出来て本当に嬉しかった。智成さんがプレゼントしてくれるアクセサリーや服に似合う女性になりたかった!だけど、一緒にいても哀しくて、虚しくて、寂しくて……これでは私が私でなくなってしまう。智成さんとの結婚に憧れていましたが、夫婦として寄り添えるわけがないって気がついたんです…」  菜々は俺への思いを、既に過去形で話していた。 「わかった、これから気を付けるよ。だから別れるなんて考えなおしてくれないか」  俺が菜々を抱きしめようと手を伸ばすと、ふっと菜々は1歩退いた。 「無理です。頑張り過ぎて……もう疲れてしまいました」  焦点のあっていない瞳。  元気過ぎる菜々はもうどこにもいない。  俺が、ここまで追い詰めたのか? 「……わかった。うちにある君の荷物はどうするかい」  菜々は実家暮らしなので、俺の仕事が無い週末はだいたいうちに泊まりに来ていた。  あちらこちらに菜々の私物が置いてある。 「適当に処分してください。もう使いませんので」  俺との思い出があるものはもう要らないという事か。
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