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彼との出会い
「香里奈ちゃんは語学だけを学ぶ学部より、国際関係学部とかの方が向いてそうだね」
あまりにも近くでそう話されるので私はいつも顔を見ることが出来ない。
「そうかな?」
「うん、だって俺の貸した本もあっという間に読んでたし興味があるんでしょ?」
「幸翔さんに出会わなかったら知らなかったな」
私が地元を離れて東京の大学に進学することを決めたのは幸翔さんの影響だった。
幸翔さんは私が高校生の時の家庭教師だった。
地元の国立大学の医学部で、地元を離れ一人暮らしをしている幸翔さんを私の両親は気に入り度々勉強の後には一緒に食卓を囲んだ。
母は最初こそ異性と二人きりになるのを心配して、失礼のない言い回しで扉を少し空けておくように言ったり、度々部屋を覗いたりしてきたけど、そんな心配は不要だった。
熱心に受験に必要な高度な勉強を教える幸翔さんは、まさに好青年で私もその真面目さに応えたいと勉強に励んだ。
でも内心は私の方に「勉強を教えてくれる優しい大学生の先生」以上の気持ちが芽生えていて、私は彼に恋をしていた。
屋外のスポーツなんて今までしたことがないような真っ白の肌で、線の細い幸翔さん。
細い指先でペンを握る仕草や隣から聞こえてくる声に胸をときめかせていた。
何よりも幸翔さんが雑談で語る社会情勢のこと、好きな音楽の話、大学の交友関係についての話題は私の興味を引いた。
私よりもずっと大人であり、疲れた社会人とは違い、好きなことして人生を楽しんでいる姿は私に大学生活に向けての勉強のモチベーションを上げた。
その頃の私にとって幸翔さんはただただ憧れの存在で付き合いたいだなんて思うこともおこがましいと思っていた。
ただ、幸翔さんと話す時間が楽しくこんな日々がずっと続いて欲しいと思っていたけど、もちろんそんな日々は終わり、私の大学進学を機に会うことはなくなった。
スマホに残った連絡先を眺めてみては、他愛もないやり取りをしようかと迷ったけどこちらから送ることなんて出来なかった。
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