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新社屋
都心に建つ16階建ての本社ビル、その3階に新しい[Navigate.com.JAPAN]が入る事になった。
これ迄の3倍の広さと、快適な職場環境、充分な福利厚生。
14階には社食もあり、コンビニの弁当を買いに行く手間も省け、無料で食事も飲み物も食べられる事になった。
16階は社長室と社長の住空間だと言う。
海外で育ち、5ヶ国語を操るという社長は親から引き継いだ会社をあっという間に拡大し、今や世界を席巻する勢いだ。
未だ独身で決まった相手はないものの、夜の世界でも名を馳せているらしい。
あの容姿と経済力なら、引く手数多だろう事は想像がつく。
どんな顔で女を抱き、耳元でなんと囁くのだろう・・・・・社内の女子達の口さのない言葉が聞こえてくる。
天上人のようで、我々社員には話す事もお目にかかる機会も滅多にないが、同じ男としてそして「らいら」という名前から他人とは思えない興味が湧いてくる。
それにしても俺の好きな《らいら》は今頃どこで何をしているのだろう。
俺のことなんて忘れて今もコロコロと笑っているのだろうか?
《らいら》と呼べばまた俺を見て笑って走ってきてくれるだろうか?
小さくて太っちょの可愛い《らいら》
今日のお昼は《らいら》の好きな[海老とホタテのグラタン]を食べよう。
社食のカウンターで[海老とホタテのグラタン]を注文する。
出来上がるまで、テーブルでスマートフォンを見ていた。
「ご一緒してもいいですか?」
そう言われて顔を上げた。
「社長・・・・・ど、どうぞ」
呼び出し音が鳴って、注文した[海老とホタテのグラタン]をトレイに乗せて戻ってくると、社長の呼び出し音が鳴る。
戻ってきた社長のトレイにも[海老とホタテのグラタン]。
「同じですね」
にっこり笑う社長、恐縮する俺。
熱々の[海老とホタテのグラタン]を夢中で頬張る。
「杉尾 隼さん、でしたよね」
「・・・・・はい、僕の名前覚えて頂いたんですか?」
「はい、この前の飲み会でお目にかかりましたよね」
「・・・・・」
驚いた、あの飲み会の席には30数名が出席していた、簡単な名前だけの自己紹介はしたけど、それだけで覚えていたとは・・・・・
「グラタンがお好きですか?」
「はい、海老とホタテのグラタンが特に好きなんです」
「私もです」
そう言って笑った顔が人懐っこくてなぜか切なくなった。
「お先に失礼します」
トレイを持って立ち上がる。
何となくこれ以上一緒に居たくなかった。
トレイを返却してエレベーターに乗って三階の職場へ戻った。
気さくで優しそうで・・・・・あの声も・・・・・気になる。
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