迷い

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迷い

始めて逢った時から気になった。 あんな魅力的な人なら誰でもが自分を覚えて欲しいと思うだろう、特別になりたいと思うだろう。 だが、それだけじゃない《らいら》という名前のせいかもしれない。 社食で同じメニューを食べたせいか、名前を覚えられていたせいか・・・・・ 自分がゲイならともかく、男を好きだと思った事はない。 《らいら》は別として、付き合ってきたのは女性でセックス対象も女性だった。 相手が真剣かどうかは関係なく、セックスだけの相手は気楽でいい。 仕事が無事に終わって、待ち合わせの場所へ向かった。 週末を他人と過ごす気は無いが、金曜日の夜だけは一人でいたくなかった。 今夜の相手は合コンで知り合った、女子大生。 来年30の自分からは少し歳が離れてる気もするが、今夜だけの相手なら構わない。 体力も気力も自信はある、いつものホテルで食事を済ませ、予約済みの部屋へ向うために、エレベーターを待った。 その時、二人の男が隣に立った。 エレベーターのドアに肩越しの男の顔が映った・・・・・思わず振り返る。 喉が詰まり、声は出なかった。 胸の奥で小さくつぶやく・・・・・「社長・・・・・」 社長は男連れだった・・・・・同じ雰囲気の洒落た男と一緒だった。 社長より少し背は低く、明るい柔らかな髪が額にかかる、甘い顔をした白人の男。 社長の左手は男の腰を抱いていた、思わず目を伏せた。 女性の事も忘れ、ホテルの外へ向かって走り出した。 心臓は激しく鼓動し、見てはいけないものを見た罪悪感と、見たくなかったという気持ちでいっぱいだった。 社長が男とホテルにいた事に驚いたのか、女性といたのを見られた事が嫌だったのか・・・・・分からない。 冷静になって自分の気持ちを考える。 女性との関係が今後どうなろうと関係ない、社長が男とホテルにいた事がショックだった。 あの社長が男に組み敷かれるところも、男を貫くところも想像出来ない。 服を脱ぎ妖艶な姿で立つ社長・・・・・男を抱く社長に嫌悪感が湧き上がった。 女性をホテルに残し、一人電車に乗った。 社長がその後どうしたのか・・・・・あのまま部屋へ行ったのか・・・・・ 自分に見られた事をどう思っているのだろう。 男とホテルにいた事を社員に知られる不安は無いのだろうか? 言いふらす気はないが、無防備すぎる事に腹が立つ。 男と関係があろうとなかろうと、責めるつもりも資格もない、社長がゲイでもそれでいい。 男だからと必ず相手は女でなければならないと、決める方がおかしい。 自分だって本当に心から好きなのは《らいら》だけだから・・・・・ 《らいら》が男だろうが関係ない。 抱けと言われれば抱けるし、キスだって出来る。むしろ《らいら》に逢って、今の気持ちを正直に伝えられるなら、一刻も早く伝えたいとすら思っている。 逢えない苛立ちと怒りが男と居た社長に向かっていた。 最悪の週末をなんとかやり過ごし、月曜の朝を迎えた。
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