201人が本棚に入れています
本棚に追加
無視
社長と顔を合わせる事は滅多にない、一般社員など歯牙にも掛けていないだろうが、顔を合わせる事は極力避けたかった。
社食へ行くのもやめにして、個室の休憩室でコンビニの弁当を食べた。
社食の豊富なメニューに今更ながら驚きと感謝を感じるが、それも全部社長の采配だと思うと素直に喜べない。
だが、社長にとって平社員の自分に見られたことなど、大したことだとは思っていないだろう。
だったら、自分が気を遣ってこんな所で美味くもない弁当を食べる必要などない、例え社長に逢った所であの人が気にするはずもない。
無性に腹が立って、弁当をゴミ箱へ投げ込んで社食へ向かった。
無料で提供してるなら、この際有り難くいただく事にした方がずっとました。
社食の扉を開け、《らいら》の好きな「海老とホタテのグラタン」を注文した。
テーブルでスマートフォンを見ながら、出来上がるのを待った。
呼び出し音が鳴って、カウンターへ行くと注文のグラタンが置いてあった。
グラタンの乗ったトレイに手を掛け、持ち上げた瞬間手首を掴まれた。
「それは私のものです」
驚いて声のした方を見ると、社長が立っていた。
まさかの偶然に呆然とする。
トレイから手を離し、一歩後ろへ下がった。
社長は何も言わずトレイを持って、テーブルへ歩いて行った。
やっぱり、彼にとってホテルで自分と逢った事はなんでもない事だった。
そう気がついた途端、焦ってあの場所を走り出した自分が矮小でバカバカしく思えた。
テーブルで熱々のグラタンを頬張りながら、なぜ自分がこんなに悔しく腹立たしいのか、原因がわからず苛立だけが残った。
最初のコメントを投稿しよう!