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👑南河 禮蘭の正体
母の再婚でフロリダへ引っ越した。
そして名前も変わった南河 禮蘭それが、新しい自分の名前。
子供の自分に残るという選択はなく、仲のいい友達との別れも受け入れた。
杉尾 隼との別れは小さな心に悲しみと切なさを残した。
せめて最後の別れに隼の家を訪ねるも、彼に逢う事も別れの言葉を告げる事もできなかった。
遠く離れても、優しく笑う隼の面影はずっと残っていた。
同じ歳なのに、自分より背が高くいつも優しく守ってくれた隼。
隼の事が好きだった。
隼さえいれば安心だった。
大きな手で包むように抱きしめてくれた、そんな隼が好きだった。
隼と離れてから、歳を重ねるごとに容姿も変わり身長も伸びて、子供の頃の太った自分は変わったけど、いつもずっと隼を想っていた。
義理の父親の影響で企業経営を学び、人との繋がりには言語が重要だと他国語も習得した。
大学を卒業する頃には、義父の片腕と言われるほどになり、日本での経営を任される事になった。
古い体制を変え、開放感と自由な感性を取り入れ、働きやすい環境を整えた。
昔ながらの社員食堂を厳選された食材や熟練のシェフを雇い、好きな時間に好きな分だけ食べられるバイキング形式の社食に変えた。
従業員たちは、同じ給料・待遇なら少しでも福利厚生が充実している企業へ転職することは当たり前であり、周りから羨ましがられる社員食堂があることは、企業の採用を楽にし、離職率やパフォーマンスに大きな影響を与えることになる。
帰国が本格的に決まり、隼の行方を探した。
幸いな事に直ぐに彼の職場が判明した。
業績も良く、将来性もあり今現在の小規模な運営では手に余る程に成長しつつあった。
これを好機に共同経営と言う形で傘下に収めてしまえば、隼と会う機会も夢ではない。
隼が自分を覚えているか、確証が持てない以上迂闊に声をかける事はできないが、近くにいる事で彼との距離を近づける事ができる。
滅多に出ることのない社員同士の飲み会にも顔を出した。
南河 禮蘭と名乗っても、彼の表情に変化はなく、忘れられたことへの失望は大きかった。
名前が変わったとはいえ、同じ禮蘭と名乗った以上、覚えていればなんらかの変化が有るだろうと期待したのは自惚れだった。
彼は自分のことなど、露ほども覚えていなかった。
社食で名前を呼んでも、驚きに目を見張るばかり。
挙げ句の果てに、日本を訪れたかつての男とホテルにいる所を見られてしまった。
彼が女連れだった事も衝撃だった。
小学生の自分が将来どんなセクシャリティになるか、分かるはずもなくハイスクールでようやく自分がノーマルでは無いと気付いた。
日本と違い、性思考も個性だと受け止める国でも、今だに差別は少なからずある。
それでも、自分の幼馴染がゲイだと分かって、平然と受け入れられるとは思わない。
これでは、今更名乗るわけにも懐かしく旧交を語るわけにもいかない。
彼の自分を見る目は益々険悪なものになり、社食で逢ってももはや目を合わせることすらなくなった。
隼が自分を忘れたのなら、改めて出逢いから始める事もやぶさかではないと考えていたが、それすら無理な状態になった。
幼い頃の記憶に残る隼の声が切なく蘇る。
《らいら》と呼んだ隼が自分を優しく受け止めてくれた。
あの隼はどこにもいなかった。
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