201人が本棚に入れています
本棚に追加
未知との遭遇
低い植え込みと繁茂した木立で覆われ、仄かな行灯の灯りの先に重厚な玄関が見えていた。
座敷の中はヒノキの臭いと、懐かしい井草の香りがしていた。
座敷に通され、目の前に見た彼は椅子に腰掛けていても分かる高い身長と引き締まって見事に均整のとれた体躯、完璧なまでの顔の造型、暫しの間見惚れてしまうほどだった。
「始めまして、[杉尾 隼]です」
「お目にかかれて嬉しいです。隼さん。私がらいの義父、[南河 慧士郎]です」
男の声には周囲の者を無意識のうちに従わせ、その場の雰囲気を呑み込むようなある種の支配者の魔力が備わっていた。
そんな彼が禮蘭の事をらいと呼んだ事に驚く。
それは、真凛の言った事と同じ理由だろうか!
「らいはずっと隼さんを好きだったようですね」
「・・・・・すいません。僕は禮蘭の事がずっと好きでした。忘れた事は有りません。どうぞ、僕と禮蘭の事、許していただけないでしょうか?」
「隼さんだけが、彼の事を禮蘭と呼んでもいい人なんですよ。そんな特別な人を私が反対できません。私も真凛も彼からは禮蘭と呼ぶ事を禁止されたんです。今でもそうです、だかららいと呼んでます。隼さん、彼をよろしくお願いしますね」
「お父さん、禮蘭を大切にします」
「まぁ、隼さん、お父さんだって。」
「・・・・・あの、あ、すいません」
「大丈夫ですよ、お父さんと呼んでくれても[慧士郎]さんでも」
「らい黙ってないで、隼さんにお酒を注いであげなさい」
「はい」
さっきまでの心配はあっという間にどこかへ消えた。
禮蘭も相当な美丈夫だと思っていたが、お父さんの魅力はさらに輪をかけたイケメンぶりだった。
顔の造形はまるで、芸術品の域にまで達し、同じ人間なのに、この不公平さに腹も立たない。
握手と乾杯で椅子から立ち上がった彼は、禮蘭よりも更に10センチほど高く。
スーツもワイシャツもネクタイも全てが彼の魅力を引き立てる、ただのアイテムでしかない。
恐らく彼は何も着ていなくても、充分魅力あふれる男だろう・・・・・などと、禮蘭には到底言えない不埒な感想を頭の隅で考えていた。
食事は美味しく、真凛との再会を喜びあい、お父さんからの心温まる言葉で禮蘭との関係も快諾を得た。
これ以上のない幸せと興奮に包まれて帰宅した。
「禮蘭、お父さんがあんな風に言ってくれるとは思ってなかった。良い人だな」
「そうだろ、あの人は心の広い人だと思う。俺のことも隼の事も理解してくれたんじゃないかな」
「それにしても、何時間でも見てたくなる顔だった・・・・・マジで見惚れた。ほんと、美術館の芸術品みたいな顔だよな」
「惚れそうか?」
「いやー、歳なんて関係なく惚れるな」
「まったくお前は惚れっぽい奴だよな」
「何言ってんだ、お前のお父さんだからだよ」
最初のコメントを投稿しよう!