一.その男、人にあらず

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 細々と営業を続ける店が、通りに店を出しては並べるのだ。  肉屋はフライドポテトとやらを、玩具屋はかき氷などを。  通りに並ぶ店の中には、街中から出張して出店する者もあると耳にした。  そのせいでより人が集まりやすいのだろう。  おかげで捗るというものだ。 「今宵の狩りは豊作の予感がするの」  男が手の平を上向かせると、焔が揺らめき始める。  そこへ、ほお、と息を吹き込んだ。  息吹が焔をまとい、火の粉となりてぽわと浮かぶ。  それはさながら蛍火のようで。 「さあ、行け。子を惑わせ、誘え」  男が手を振るえば、蛍火はゆうらりと通りへ向かって飛んで行く。 「狩りの時間ぞ」  男がうっそりと笑った。  暗がりで獲物をおびき寄せるには、灯りで惑わせ誘うもの。  と。突として男が身体をくの字に曲げた。  げほごほと、鈍い咳が夜に浸る雑木林に響く。  やがて咳の波が引いた頃に、男はやっと身を起こした。  その際に己の身体が透けていることに気付く。 「……私も弱くなったものよな。これしきのことで姿形が保てなくなるとは」  ぽちゃんと池で何かが跳ねた。  男は口に着物の袖口をあて、また軽く咳き込む。  これは病などでなく、弱体していく身体の歪みから生ずるもの。  ああ、口惜しい。男は唇を噛む。
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