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「久しぶりね、あなた」
妻はくすくすと微笑みながら話しかけて来る。
「ああ、久しぶりだな」
「顔色悪いけど、どうしたの?」
「いや、何でもないよ」
「久しぶりにあったのに嬉しくないの?」
「違う」
「ひょっとして、嫌だったかしら?」
「そうじゃなくて」
「あたしの事、嫌いになった?」
「そんな訳ないだろう!」
いつもの除霊のペースじゃない、先程から妻に会話主導権を握られっぱなしで除霊を妨害されているとしか思えない。妻とはいえ幽霊だ。除霊しないと憑依した女性に危険が及んでしまう。気を取り直して除霊に取り掛かる。
「お前の事は愛してる、でも除霊しなければならない。許してくれ」
幽霊に愛してるだとか許してくれとか、霊媒師の発言としてどうかと思うが仕方ない。
「愛してるのに除霊するの?」
「愛してるけど除霊するんだ」
「ほんとに?」
「ほんとだ!」
「この女の人から?」
「そうだ」
「この女の人だれ?」
「依頼人だ」
「ひょっとして再婚しようよしてたり?」
「何故そうなる?」
「いいのよ、あたし故人だから、浮気や不倫にならないから気にしないけど」
俺は痴話喧嘩をする為に、霊を呼び出した訳じゃないのに、妻はどうしても除霊されたくないのかまともに話を聞いてくれない。そうだとするならば、痴話喧嘩の相手になるしかないか。
「お前、ほんとは気にしてるだろ」
「全然」
「絶対、俺に妬き餅妬いてるな!」
「妬いてません」
「俺が綺麗な女性と仲良くしてるから? 嫉妬してんだろ」
「違いまーす」
「あ、そっか違うのか。じゃあこの人と再婚しようかなあ」
「どうぞご勝手に」
「無理するなってきれていいんだぞ」
「浮気も不倫もない、ふーん♪」
思った以上に一筋縄ではいかなそうだ。
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