22人が本棚に入れています
本棚に追加
/87ページ
*―――**―――**―――*
「うおおおおおおおおーっ!」
その頃――小珠は血塗れの姿で何とか膝立ちし、法眼に頭突きをしていた。
さすがにこの反撃は予想していなかったのか、法眼は均衡を崩してぐらりと後ろに倒れる。
その隙に逃げようと入り口に向かって走った。
「待て!」
「待たないよ! 待てって言われて待つ人がどこにいるの! 私こんなことしてる場合じゃないの! 早くおばあちゃんの元に戻らないと……!」
もしかしたら、こうしているうちにキヨの意識が戻っているかもしれない。今呼びかけたら応えてくれるかもしれない。キヨの最期に一緒にいられないのは嫌だ。
歯で取っ手を噛んで扉を開こうとしたが、錠をかけられているのかびくともしない。
すると、後ろの法眼がおかしそうに笑った。
「その戸は俺にしか開けられない。諦めるんだな」
愉しげに髪をかき上げながら、ゆらりゆらりと近付いてくる。
「じゃあ開けて」
「獲物をみすみす逃がすかよ」
「そんなに私の力が欲しいなら、後でいくらでも利用させてあげる。でも今はだめなの」
そう言った時、ふと違和感を覚えた。血が流れていない。切りつけられた傷が治っている。さっき頭突きをした時からだ。
「なんだ、できてるじゃないか。玉藻前より優秀なんじゃないか?」
法眼がにやりと笑った。
「続きだ」
振り上げられた手の中には、短刀がある。
また刺される――と思いぎゅっと目を瞑った。
しかし、予測していた痛みはない。おそるおそる目を開くと、短刀が勢いよく弾かれたように床にからからと落ちていた。
「……?」
「っははは! 早いな。妖力で危険を弾いたか。普通の刀ではもう効かないようだ。倉から呪具を持ってこよう」
法眼の口ぶりからして、刀を弾いたのは小珠の力らしい。完全に無意識だったので実感が湧かない。
「お前、面白いじゃないか。痛めつけがいがあるな」
法眼が小珠の頬を手で掴んで笑みを深める。その不気味さにぞっとした。
最初のコメントを投稿しよう!