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右の塔は、物寂しい雰囲気が漂っている。
サーシャはあまり校舎内に来たことがない。店の周りと校庭くらいしか移動しないので、学校の教師や生徒のことも、店に来る人以外のことは知らない。
用務員のおじいさんの話によると、生徒が普段使っている教室は左の塔に集中しており、右の塔は資料室や倉庫といった部屋がほとんどのようだ。確かに、人通りも少なく静かである。
階段を上がり、最上階に辿り着く。重厚な扉がある。この階は学園長の部屋だけなのか、目の前の扉しか見当たらない。
「サーシャ・ルゥです」
「入りなさい」
学園長と思われる男性の声がした。
老人の声を想像していたが、予想よりも若い声だった。
「失礼します」
ゆっくりと扉を開け、サーシャはおそるおそる中に入る。
部屋の中には40代くらいの男性と、この前出会った黒髪の青年がいた。
おそらく、男性は学園長。青年はノアがこの前話していた特待生で、確か、名前はレイヴン。レイヴンは、何故ここにいるのだろう?
男性は席を立ち、サーシャを部屋の隅にある来賓用のテーブルまで案内してくれる。
「よく来てくれたね。私はこの学校で学園長をしている。レイモンド・ヴェンデだ。よろしく」
レイヴンの存在を不思議に思いながらも、男性に促されるまま、サーシャは椅子に座った。
座り心地の良い、高級そうな椅子。
「君は、食堂横の売店で働いているとか。若いのに感心だね」
「いえ、そんな。恐縮です」
男性は優しい声でサーシャに話しかけて来る。穏やかな口調に、柔らかい物腰。
学園長というと厳格な老人を想像していたが、想像とは全く違う人だった。服装や余裕のある風情など、彼が上流階級の人だということは一目でわかる。だが、エレオノーラのような、こちらの背筋がピンとするような雰囲気はない。どちらかというと、教会の神父様のような、温和な印象を受けた。
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