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学園長はいきなり本題を話すような、無粋な人ではなかった。
サーシャのお店の話や学校の行事のことなど、たわいもない話題を学園長が振ってくれる。
サーシャが答えやすい話題を提供してくれるせいか、学園長の相槌が上手なせいか、とても話が弾む。気づけば、この部屋に入る前の緊張感は消えていた。
「学園長、早く本題に」
サーシャと学園長の雑談がじれったかったのだろう。
レイヴンの少し苛ついた声が聞こえてきた。
「ああ、そうか。それじゃあ、早速だが本題に入らせてもらうよ」
来た。
世間話をする為にサーシャを呼んだのではないくらい、わかっている。
問題は、その本題とやらがどんな内容であるかだ。
「……まずは、こちらを」
レイヴンがカゴを取り出す。
この前、ペットを入れていたカゴだ。カゴのフタが開かれると、やはりこの前の犬のような黒毛の動物が飛び出してきた。
動物はサーシャのことを覚えていたのだろう。
カゴから出て来ると、すぐにサーシャに向かって走ってきた。そのままの勢いでぴょんとサーシャの膝の上に乗り、擦り寄ってくる。あいかわらず人懐っこい。
「よしよし。私を覚えていてくれたの? 頭が良いのね」
なんて可愛らしい。モフモフの毛も気持ち良い。
この動物が学園長の本題とどう関係があるのかはわからない。もしかして、この動物は希少な生き物で、その世話をして欲しいとか?
(もしそうだとしたら、喜んでお世話するのに)
なんて、サーシャは気楽な気持ちでいた。
だが、サーシャ以外の2人は違う反応だ。
レイヴンはあいかわらず無表情である。それはいい。眉間に皺を寄せて何か考えているようだが、以前も似たような表情をしていた。それよりも、学園長が目を丸くしていることが気がかりだ。
何かサーシャは変なことをしてしまったのだろうか。
「……信じられない」
男性の呟きに対して、レイヴンが淡々と答えた。
「信じられないと言うのなら、別の種族で試してみましょう」
信じられない? 何のことだろう。
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