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それにしても、不思議なカゴだ。あれだけ大きい生物が、男性が片手で持てる大きさのカゴの中に収納されてしまうなんて。
この前見た授業の時も、あれだけ大きな魔獣がカゴの中へ消えて行った。
そういえば、子犬のような獣も、カゴの中に吸い込まれた。夜に出会った時は単純にカゴの中で飼っているとサーシャは考えていたのだが、そうではないらしい。
あの人懐っこい動物も、もしかして魔獣なのではないだろうか。
「サーシャ、君には魔獣を手なずける才能があるみたいだね。レイヴンから話を聞いた時は半信半疑だったが、疑いようのない事実だ」
学園長が、どこか嬉しそうに話す。
「素晴らしい能力だ。こんな素晴らしい才能の持ち主に、今まで出会ったことはない! レイヴンもそう思うだろう?」
「はい。歴史書でその存在は書かれていましたが、まさか今の時代にその才能の持ち主がいるとは。お伽噺のようなものだと思っていました」
「さっきの犬のような獣も、大きい鳥も、どちらも訓練のされていない魔獣だ。人間になつくわけがない。それが、あんな風に魔獣の方から擦り寄ってくるなんて。実際にこの目で見たというのに、まだ信じられないくらいだ」
興奮気味に目を輝かせた学園長がしきりにサーシャの能力について話してくれるが、当の本人だけ話についていけていない。
「あの、その能力があると、私はどうなるのでしょう?」
サーシャの純粋な疑問だった。
めったにお目にかかれない魔獣に好かれても、全く嬉しくない。
嬉しくないどころか、不安ですらある。この能力を使う為に魔獣が多くいる場所に連れて行かれるとか、変な実験をさせられるとか、そういうことを考えてしまう。
「そうだね、君はどうしたい? 今のままだと宝の持ち腐れになってしまうよ。私としては、この学校で魔獣や魔法について学んでもらって、その才能を生かして欲しいのだけれど」
「私が、この学校で、学ぶ?」
考えてもいないことだった。
学校生活に憧れはあるものの、この学校で学ぶなんて、夢物語だと思っていた。
「で、でも、学費が払えません」
そう、この学校は貴族の子息子女が多いせいか、学校の設備が整っているせいか、学費が高いと聞いている。
サーシャの仕送りに頼らざるを得ない状況である実家には、学費なんてお願いすることはできない。
「君の為に、特待生枠を用意しよう。特待生は、学費や学校生活を送るために必要な費用は全て免除される。金銭面で心配することはない」
学園長の申し出は、願ってもないことだ。学費さえどうにかなれば、入学することに障害はない。
それでも、サーシャは素直に首を縦に振ることができなかった。あともう1つだけ、気になることがある。
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