サーシャの才能

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「あの、売店はどうなるのでしょう。店は続けたいのですが」 「学業と労働の両立は難しいだろうね。そうでなくても、今からの入学では、既に他の生徒とも差が開いている状態だ。ついて行くので精一杯だろう」 サーシャは困った。 生徒にはなりたい。学校に行きたい。あの高額な学費を免除してもらえるなんて、ありがたい話だ。 だが、売店をやめるわけにもいかない。 エレオノーラや双子だけではなく、他にもたくさんの生徒や先生、校内で働いている人たちが売店に訪れる。その人たちとの交流の場所にいられなくなるのは寂しい。 そして、サーシャは働いて家にお金をいれないといけないのだ。 迷っているサーシャに、レイヴンが不思議そうな顔をしている。 「何を迷う必要がある。売店は他の人間にやらせておけばいいだろう。それよりも、自分にしかできないことをするべきだ。魔獣を手なずける才能はお前にしかない。だったら、その力を伸ばすことを最優先にするのは当然だろう」 それはそうだ。レイヴンの言っていることは、学校に行っていないサーシャ だってわかる。 売店だって、サーシャは今年の春に来たばかりで、その前は知らない誰かが店員をしていたのだから。 だが、サーシャは即答できなかった。急にこの学校に入学できると言われても、手放しに喜ぶことができない。今の生活でも充分満足しているサーシャにとって、この平和な日常が変わることに恐れがあるのだ。 「レイヴン、サーシャにも事情があるんだよ」 学園長がレイヴンに対してやんわりと注意する。そして、サーシャの目を見て微笑んだ。 「サーシャ、私は君を困らせたいわけじゃないんだ。ただ、売店で働く以外に、この学校で学ぶという選択肢ができた、というだけの話だと思って欲しい。君が学びたいというのなら、私は大歓迎だ。生まれの貴賎や財力で、貴重な才能が潰されるほど悲しいことはないからね」 学園長の言葉は、柔らかい声質のせいか、穏やかな口調のせいか、優しく聞こえる。そして、何の反発心も出てこない。すんなりと胸の中に入ってくるようだ。 「すぐに答えを出さなくてもいい。ただ、入学したいと思ったら、いつでもこの部屋を訪ねてきたまえ」
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