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サーシャは何も答えを出せぬまま、レイヴンと一緒に学園長の部屋から出た。
今まで何の心配もない平和な日常だったが、1つ悩みができてしまった。贅沢な悩みではあるが。すぐに返答しなくてもいいという学園長の厚意に、感謝しなければいけない。
「……そんなにあの店が大事なのか」
2人きりになると、レイヴンが静かに尋ねてきた。
「え? もちろん、そうですけど……」
至極当然のことだった。あの店は、サーシャの生活の一部であり、守るべき場所だ。大事に決まっている。
レイヴンは何かを考えているようだ。
「店で働き続けることができれば、学校で学びたいと思うか」
「それはもちろん」
学校生活に、サーシャは昔から憧れがあった。学びたいという気持ちは充分ある。それと同じくらい、店を続けたいという気持ちも。
「わかった。学園長に伝えてくる。お前は先に帰れ」
「はい?」
レイヴンは「ちょっと忘れ物を取りに戻る」くらいの様子で去って行った。
学園長に伝えると言っていたが、店を続けたいという話は先ほどサーシャの口から学園長に話している。何を伝えるのだろう。
感情が顔に出ないからか、口数が少ないからか。サーシャにとって、レイヴンは全く理解ができない人だ。
レイヴンの行動を不思議に思いながらも、サーシャは素直に店へと帰ることにした。
店の準備もしないといけない。先に帰れと言われているし、全く問題ないだろう。
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