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仁美との初デートはサンシャイン水族館で、彼女は黒いモーニングコートを羽織ったような、腹白いケープペンギンにいたく魅了された。
ショップで見つけた30センチほどのケープペンギンのぬいぐるみを、仁美は買うかどうしようか30分も悩み、見かねて恭介が買ってやった。
はじめてのプレゼントになったペンギンのぬいぐるみは、サンシャイン水族館が故郷であるがゆえ、仁美によってサンと名づけられた。
3年前のことである。
以来、車で出かけるときには、仁美は必ずその大きなサンをつれてきた。
助手席の仁美はいつでも、鞄ではなく、サンを抱えていた。
車でいった先々で仁美はサンを降ろし、花見でも海辺でも公園でも、撮った写真にはふたりと一緒にサンが写っていた。
黒いモーニングコートを着た、今日というハレの日の恭介は、ペンギンに似すぎていた。
腹がでっぷりとしている。
足が短い。
尻が大きい。
そういった恭介のもともとの体型が、今着ている服のせいで、さらに目立ってしまっている。
そうなるとわかっていたら、ペンギンそっくりの黒ではなく、グレーにしたものを。
もしかしたら仁美は日頃から、サンと俺がよく似ていると思っていたのかもしれない、恭介は考える。
俺に似ているからサンを好きになったのか、サンに似ているから俺を好きなのか。
だいたいこんな俺なんかよりも、仁美にはもっと似合う男がいるだろうに……恭介は疑心暗鬼になっていた。
式の招待客はサンを知らないとしても、皆、この姿を見ればペンギンを連想するだろう。
それは嫌だ、公開処刑だ、いやもしかすると仁美は式にも披露宴にも、サンを小脇に抱えて臨むかもしれない。
そんなのは絶対に嫌だ……じゃあ、どうすればいい?
どうすれば……っ!
恭介が鏡の中の自分を見つめていると、その姿は次第にサンというぬいぐるみそっくりになり、生きたケープペンギンになっていった。
「だいたいですねえ、ペンギンに似てるという理由で落ちこむってことは、我々ペンギンを、ばかにしてるってことじゃあないですか?」
鏡の中で、身体が黒くて腹白いペンギンがしゃべった。首元には黒い蝶ネクタイを締めているように見えなくもない。
鏡に映っている椅子に座った生物は、ペンギンになり果てた恭介ではなくほかの個体であり、まぎれもなくほんとうのペンギンだった。
驚いた恭介は、立ちあがると鏡に近寄った。
〝彼〟の言うことはもっともで、反論の余地がない。
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