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「あのですねえ、もっと好意的にとらえてくださいよ。ペンギンに似てるってことは、とってもキュートでエレガントで名誉なことなんですよお?」
恭介がやっとのことでうなずくと、ペンギンはため息をついた。
「あなたはご自分に自信がないのですね。それはつまるところ、マリッジブルーってやつなんじゃあないですか?」
鏡の中のペンギンは羽をばたつかせ、ずけずけとものを申す。
マリッジブルー……そういう言葉は知っていたものの、まさか自分にあてはまるとは思ってもいない恭介だった。
「この僕に、なんなりと話して聞かせてくださいよ。そのアンニュイな雰囲気も魅力ですが、せっかくのハレの日、笑顔でいてほしいものです」
どうやらこのペンギンは自分の味方のようだ……恭介はそう思うと、胸のうちの重たいものを吐露しはじめた。
一、 モデルのように美しい仁美に、ペンギンのように滑稽な自分は不釣り合いである。
一、 これからはじまる結婚式も披露宴も、自分がペンギンに似ていると嘲笑されるのかと思うと、どこかに隠れてしまいたくなる。
一、 こんな自分が最愛の仁美を幸せにできるのか、まったく自信がない。
一、 そもそも彼女は俺よりも、ペンギンのぬいぐるみを愛しているんじゃないか?
そんなようなことを恭介が伝えると、ペンギンは恭介をにらみつけた。
「やはりあなたは我々ペンギンを、ばかにしていますねえ?」
いや、そういうわけでは……、恭介はすぐに否定しようとした。
けれど心にもないことを言える口を、あいにくと持ちあわせてはいなかった。
「わかりました。お灸が必要のようですね。それにこちらのほうが、彼女を愛しているのですから!」
黙りこんだペンギンを見ていると、彼は走りだし、瞬時に鏡を突破するなり恭介の後ろにまわった。
そして恭介は背中に衝撃を感じた。
ペンギンの跳び蹴りだ。
不意を突かれた恭介はよろけ、鏡にもたれかかるとそれは、こちらとあちらの境界をなしてはいなく、ぐにゃりと次元がゆがむ。
バランスを崩した恭介が鏡の中へ転がったとたん、向こう側とこちら側に、ふたたび境界ができてしまった。
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