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「私、子ども産めなくなるんだよ?このまま歩けなかったら車椅子になるかも。それに、家のことだってひとりでできなくなるし、買ったばかりの家もバリアフリーに――」 しなくちゃ、と言いかけた唇に、陽太の指が触れる。それはまるで、これ以上は言わなくていいと言っているかのようだった。 「俺は、子どもを望めなくてもいいよ。美優と一緒にいられればそれでいい。親にも俺からしっかり言うし、聞き入れてもらえないなら親と縁を切ったっていい。家のことは協力してやればいいし、家だってリフォーム代くらい俺が稼ぐよ」 何も心配いらないよ、と陽太は笑顔で言い切る。 しかし彼の心の声は、ローンの計算を始めているのだった。 何も大丈夫じゃないじゃん。美優はそう思ったが、真剣に向き合ってくれる彼の姿勢が嬉しくて、面白くてクスッと笑った。 「どうしてそんなにはっきり言い切れるの?」 「だって約束したからね。一生かけて俺が美優を幸せにするって」 ふと思い出すのは、彼のプロポーズの言葉。 オシャレなレストランで指輪を取り出し、彼は真っ赤な顔でこう言ったのだ。 ――君と一緒に年を重ねたいんだ。美優が歩けなくなっても、寝たきりになっても俺が介護する。生涯幸せにするから、俺と結婚してください。 それを聞いて美優は、「同い年なんだから私がおばあさんになったらその時はあなたもおじいさんでしょ」と笑いながら言い、プロポーズを快諾したのだった。 「後悔するかもよ?」美優は尋ねる。 『「しないよ、絶対』」 そう答えたのは、陽太自身だったか彼の心の声だったのかわからない。 我が儘に振る舞ったことを美優が謝ると、彼は「なんてことないよ」と笑顔を見せるのだった。 彼の言葉が心の声と一致しているからといって、気が変わらないとは限らない。それでも、彼を信じて一緒にいようと美優は決めた。 一生を誓い合った、夫婦なのだから。 END
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