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『記憶には問題なし。喉の裂傷も経過はいい。問題は、右半身の後遺症というところか』 目が覚めてから2週間。頭に流れ込んでくる声が、人の心の声だと美優が気づくのに時間はかからなかった。 意思とは関係なく聞こえてしまう声への驚きよりは、プライバシーを侵害しているように思える罪悪感が強かった。 取り分け、医師や陽太は美優に話すこととまだ話さないでおくことの線引きをしているようで、その配慮も意味をなしていないことに、美優が申し訳なさを感じてしまうのだった。 まだ彼らの口から直接の説明はないが、美優はどうやら大きな事故に遭ったらしいということも、心の声から判明している。 高速道路を逆走してきた車と正面衝突し、奇跡的に一命を取り留めたようなのだ。 しかし“奇跡的”というだけあって、美優は重傷を負い、事故から1週間意識不明だったのだという。喉の内側には裂傷ができ、右半身は感覚がない。頭の血管が切れたと医師の心の声から聞き取れた。 骨折した箇所は傷が酷かったようで手術を受けたようだった。 「蜷川さん、別室でお話いいですか」と医師。 「わかりました。美優、ちょっと行ってくるね」 陽太はそう言って医師と共に立ち上がる。 『今後のリスクの話だろうな。どうなろうと俺は絶対、美優を支える』 陽太の心の声に、美優の気が重くなる。 彼は以前から優しくて美優に対して一途だった。そんな彼のことを美優も好いていた。 だが――これから先、後遺症が残れば自分は陽太の重荷になる。そう思うと、彼の好意は素直に受け取れないのだった。
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