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すると突然、周りの空間がぐにゃりと歪み始めた。結衣はついに生贄にされたのだ、自分の命は終わった、と思い、目を瞑った。
「おい女、目を開けてみろ」
再び酒呑童子に抱えられた結衣が目を開けると、立派な日本家屋の屋敷があった。歴史ある雰囲気だが決してボロいわけではない。由緒ある名家のような美しさがある。
結衣はこれが"あの世"なのか、意外と普通だなと思った。
「帰ったぞ」
酒呑童子が一言言うと、目の前にふわっと影が集まり、実体化した。それは結衣と同い年くらいの見た目の使用人だった。
髪は黒のショートで瞳の色は赤く、洋風のメイド服を着用していた。メイドは結衣を抱える酒呑童子に深くお辞儀をした。
「お帰りなさいませ、ご主人様……で、誰ですかその銀髪の女は誰なんですか?新しい使用人ですか?私じゃ不満なんですか?私が料理もお掃除もお洗濯もゴミ出しも出来ないのにご主人様の血を吸って生きるだけの使えない穀潰し吸血鬼だからお払い箱と言うことですか?それとも貧乳だからですか?その女私より胸大きいですね?さぞ鼻の下伸ばして連れてきたんでしょうね?私はずっとご主人様をお慕いして尽くしてきたと言うのにこれで終わりなんですねそうなんですね悲しいですあぁ悲しいです楽しかった思い出もムフフな夜も一人枕を濡らした日々も今は全て愛しい思い出ですあぁもう走馬灯が見えています私もう死にますさようならご主人様さようなら」
ブシャーー!
メイドは早口で捲し立てると自らの手首を切り、大量の血を噴き出して悲嘆に暮れるヒロインのように振る舞っていた。
しかし酒呑童子はなんら気にする事なく彼女を通り過ぎ、結衣を抱えたまま屋敷へ向かった。
「ちょっとお!無視は一番つらいです!ご主人様ぁ!」
結衣は何となく、ここがあの世ではない事を察した。
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