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1 草原の国
アリンは、ツアラングの草原の真ん中で、降ってくるような夜空の星を眺めていた。
その白銀の瞬きは、ティアルの戦いの最後に現れた不思議な人の銀髪の輝きを思い出させる。
彼は何者なのか?
忙しく過ぎる毎日だったが、ふとした瞬間に考えるのは、いつもその人のことだった。
彼は、自分の記憶のどこかにいそうな気がするのだ。アリンは、思い出せそうで思い出せない、そんなもどかしい思いを抱えていた。
野営の焚火から離れて、暗闇の手前で立ち尽くすアリンにカイデンが声をかけた。
「どうした?夜は冷える。火の傍へ来い」
アリンが振り向くと、カイデンが心配そうな顔をしてアリンに近づいた。今アリンは、ツアラング軍の凱旋に同行している。彼は、アリンが慣れない集団に入って疲れているのではないかと気にしているのだ。
アリンは、ともに窮地をくぐり抜けた戦友の顔を見た。その顔は、ティアルでマーリーンに向かっていこうとしたアリンを止めた顔を思い起こさせる。
(彼は、意外と心配症なのだ)
そう思うと、自然と笑顔が出てくる。アリンの身を案じてくれる人を、アリンはその人生の中であまり出会っていない。
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