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〜綴〜
もうずーっと長いこと
ブランコに揺られている気がする。
俺、如月綴(キサラギ ツヅル)は、小さい頃から孤独を知っていた。
共働きの両親は共に浮気相手がおり、訳の分からない理屈をこねては互いに言い争うような喧嘩を繰り広げた。
子供ながらに、それは"虚しい"という言葉となり、俺の傍に常に腰を下ろす事になる。
高校ニ年の秋。
「ヤニ切れ」
「いやいや、もう買う金ないわ」
「マジかぁ〜…ぁ…」
「何?」
学校では悪い連中と連んでいた。
タバコも酒も覚えて、まだなのは女だけ。
校舎の屋上でサボっていた俺と友達。
冬の匂いがしそうでまだソレが届かない秋の空の下、思い出したようにコンクリートに横たわらせていた身体を起こした。
「タバコ、くれそうな奴いるわ」
「はぁ〜?今更貰いタバコかよ」
「…一本て誰が言ったよ。カートンっしょ」
ニヤリと片方の口角が引き上がる。それを見た友人が肩を竦め俺を見送った。
確かクラスメイトにタバコ屋の息子が居たはずだ。
通学に使う駅の近所に昔からある小さなタバコ屋がある。いつもそこで一箱買うんだけど、何度かソイツにタバコを出して貰った事があるのを思い出していた。
髪なんて染めて、すっげぇ愛想悪かったっけな。でも不良とはちょっと違う…確かバンドみたいなことしてるとか…噂でだけ聞いた。
まぁ、俺には全く関係ない話だけどな。
落書き塗れの壁。
薄暗く静かな階段。
両手をポケットに突っ込んだまま、ステップを踏むようにリズム良くタタン、タタンと降りていく。
チャイムが鳴って授業終了。
教室から出てきた先生と肩がぶつかるがお構いなしに進む。
「おいっ!如月っ!授業は今からじゃないぞっ!」
「はーい」
「全くっ!!放課後指導室へ来いっ!」
「はーい」
バーカ、行くかよ。
手をヒラヒラさせて憤慨する先生をやり過ごし教室に入る。
一番後ろの窓側の席。
薄っすら茶色に染まった髪は少し癖毛で、休み時間は大体机に突っ伏して寝ている気がする。
ソイツの名前は、井波宝(イナミ タカラ)。
タバコ屋の息子でなんか…楽器やってるらしい…とかいう曖昧な情報程度しか知らない。俺とは違うグループに属しているせいか同じクラスだけど接点はなかった。
少し開いた窓。
緩やかに揺れるカーテンと同じように、井波の髪もユラユラ揺れていた。
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