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11 〜綴〜 傷まみれのエレキギター 山積みの音楽雑誌 棚から溢れるCD 擦り切れたボロいソファー 色んな銘柄の吸い殻 チューリップを歌う俺 井波の家を飛び出し、歩きながら思ったのは怒りじゃなく、帰りたくないな…という漠然とした感情。 玄関を開くと、母さんの悲痛な訴えが響いた。 「やめてくださいっ!」 ローファーを脱ぎながら、小さなため息を吐いた。 ガシャーンと何かが投げつけられたような音がして、俺はダイニングに駆け込んだ。 父さんは缶ビールを母さんに叩きつけた後で、床はビールの海だった。 頭を抱えて蹲る母さんに駆け寄り、父さんをチラリと見上げる。 「何だよ、その目はっ!文句でもあんのかっ!」 母さんを引き寄せていた腕にグッと力が入ると、俺の行動を予測した母さんが俺の両腕に力を込めてきた。 それは、小さな頃から聞いて来た「大丈夫だから」という言葉と同様なのだ。 大丈夫だから…なんて、大丈夫だった事なんてないじゃないか。 高校生になった俺は、もう父親の背を超えていたし、力で負ける事はないと確信はあった。だけど、母さんがそれを良しとはしない雰囲気だし、俺が踏み込んだら最後…母さんが耐え忍んで来た人生を変えてしまう気がして動けなかった。 だから、ただ、首を左右に振って、小さく呟いた。 「ありません。ごめんなさい…」 ごめんなさい? 何だ? 何がだ? 酒を飲んで女に手をあげてるおまえが謝るべきだろ! 何なんだよ! これは何なんだよっ! そう思うのに、声になった事はない。 外でする喧嘩とは、何もかもが違っていた。 幼少期からのすり込み。 恐怖 孤独 抑制 迷走 ここでは自由になれない。 父さんは冷蔵庫から新しいビールを出して、リビングに消えていった。 母さんは額から血を流し、それを押さえながら、「雑巾で拭かなきゃね」と辛そうに笑った。 俺は雑巾を手に、父親が投げ捨てた缶ビールをシンクに拾い上げ、床に跪き、拭き掃除をする母さんを手伝った。 すると、母さんは雑巾を持つ俺の手に手をかけ、そっと雑巾を取り上げた。 「綴は良いから。部屋に戻ってなさい。ね。」 俺は何も言えず、立ち上がり部屋に入った。 ベッドに身を投げて、天井を睨みつける。 俺がアイツに…父親に勝つにはどうすればいいんだろう。母さんはいつも泣いているし、俺はあまりに無力だ。 目を閉じたら、井波が弾いていた知らない曲が流れた。
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