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12 〜宝〜 如月のビー玉みたいな目。 引き込まれそうになる眼力。 造形美が俺の美的部分をくすぐっているのは確かで、手に入れたいと本能が騒つく。 チューリップを陽気に歌う如月の声が忘れられない。 絶対に上手くいく。 布団に入ったのに、居てもたっても居られなくなった俺はスタンドに立て掛けられたギターを手にがむしゃらにコードを辿る。 どんな風に上手くなれば良い? どんな風に目指せば良い? あの高み。 あんな風に自分に酔いしれた世界でアイツと… アイツと…。 壁に貼られたポスターのビッグスター達は気持ち良さそうにボーカルに寄り添いギターのネックを立て、天を仰ぎ見ている。 その世界に…俺は如月と行きたい。 翌朝の俺は目の下にくっきりクマを作り、完全な寝不足状態だった。 俺の部屋に続く細い階段がドタドタと朝から激しく音を立てている。 バターンッと勢いよく開いた扉の向こうでは凪野がビックリした顔をしている。 「何?」 ボソッと呟く俺。 立ち尽くす凪野の後ろからいつものようにニョキッと顔を出した舟木が呟いた。 「ぁ…起きてる」 「起きてちゃ悪いかよ」 俺は勉強机に立て掛けた鏡に向かい直した。 「てか、何やってんの?」 凪野は気を取り直して問いかけてくる。俺は右手に持っていたハサミを机に置いた。 「何って…前髪カット」 「いやいやいやっ!失敗してんじゃん!歪んじゃってるよ!」 凪野が慌てる。 俺はハラハラと前髪を手で払い立ち上がった。 「失敗じゃねぇし。ワザとこうやって切ったの」 「ぅわ…凄いクマ」 今度は舟木が呟く。 「ちょっと寝れなくて朝までギター弾いてた」 凪野と舟木は毎朝俺を起こしに来るのが日課なのだ。お寝坊な先輩を起こしに来ると、何日かに一回タバコが貰えるって特典があるから。 舟木がジィーっと俺をみてボソリと呟いた。 「前髪…かっけぇ」 俺は無表情な舟木の呟きにフハッと吹き出した。 「ハハッ!だろっ!なんかアーティストって感じ!」 夢中だった。 らしくなるとか、それっぽいとかじゃないオリジナリティの追求。 だけど、それがまだまだどこかの誰かの真似事だとは気付かない子供で、それでも前髪ひとつ。 前に進んだ気がして、浮かれた朝だった。
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