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14 〜綴〜 甘い香り 不可思議な髪型 垂れた目 白い肌 華奢な身体のライン 授業中、何度か振り返っては一番後ろの窓際で居眠りする井波を盗み見た。 俺にとって初めての不思議な友人。 そうだ。 他の生徒と違う。 髪を染めて、前髪なんて奇抜なカットで、香水つけて、あ、しかもレディースの。 バンドなんて洒落た事に俺を巻き込んで… だからどうしょうもなく気にかかるだけ。 いちいち言葉のチョイスがおかしいのも気になる。 放課後にただ連むだけを、わざわざデートなんて言って、ここは男子校だし、笑い話にもならない。 最後の授業中、俺は何度目かの井波への視線を先生に見つかってしまった。 「如月ぃ」 「…はい」 「教室の片隅に恋人でも居るのか?」 先生の独特な注意の仕方に教室が騒つく。 俺はムスッと頬杖をついて先生に返事を返した。 「そうなんです」 騒めきが色をつけて波紋のように広がる。 俺はそれが面白く、目を細めて先生を見つめた。 「…っ…全く、喰えない奴だ」 「お褒めに預かり光栄です」 「後で職員室へ来い」 「はーい」 教室では笑いが起こる。先生が黒板に向いた隙に、俺は井波を振り返った。 井波は頬杖をついてこっちを見ていた。 ニヤリと笑い、頬杖ついていない方の手で唇に軽く触れると、柔らかな動きで投げキッスしてきたのだ。 俺はフイと前を向いて息を吐いた。 ドキンと心臓が跳ねたのは… 甘い香水の香りを 思い出しただけだ。
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