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〜宝〜
放課後、如月は先生からの呼び出しを完全にシカトして、俺の席へやってくるなり、その鋭い眼光でジッと睨みつけ呟いた。
「デートだ」
そう呟いた如月のムスッとした顔が可愛くて思わず吹き出してしまった。
「ブハッ!アハハッ!」
「何笑ってんだよ!井波が言ったんだろ」
「アハハ!そうなんだけどさ!なぁんでそんな不貞腐れてんのよ。」
笑いすぎて目尻に涙が溜まる。
人差し指でそれを拭いながら鞄を手に席を立った。
「んじゃ、ま、とりあえず行きますか!」
「お、おう」
如月は俺に言われるがままに着いて来る。
学校を出て電車に揺られる。
如月は流れる景色をぼんやり見ていた。
「…何かあった?」
「えっ!?な、何で?」
俺の問いかけに尋常じゃない動揺を見せるもんだから、思わず苦笑いが漏れた。
「いや、如月って人見知りなとこあるけど、いつもはもうちょっと元気じゃん?」
俺の言葉に如月の綺麗な目がまた窓の外を眺める。整った横顔に見惚れてしまいそうになるのを抑えながら「やっぱ何かあったな」と呟いた。
「俺んちさ、親父がクソみたいな男でさ…良くありのヤツなんだけど、酒入るとダメでさ。」
「あぁ…居るね、暴れちゃう?」
「一人でやってくれるなら良いんだけど…母さんに暴力するからさ…」
「…大丈夫…じゃないな、そりゃ」
「ん〜…俺も、高校入ってから身長とか余裕で親父よりデカくなったし…止める事も出来るんだろうけど…母さんがそれを止めるから」
「…なんか分かるかも。親父さんのプライドみたいなもんもあるから」
「そうそう…迂闊に形を変えちゃダメなんだなぁみたいな」
いつも如月が薄っすら切ない顔をするのは、そのせいかと納得した。
「そんな事より、どこ連れてく気だよ」
気を取り直したみたいに窓から俺に視線を向ける如月。
「えっ…ぁ…あぁ…ライブハウス」
「ライブハウス?」
「まだ時間早いんだけど、鮫島さんがヘルプで叩くって前から聞いててさ」
「鮫島…」
「昨日すれ違っただろ?」
如月は記憶を辿る様に目を伏せた。
長い睫毛がふさふさと密に並んだその目元は異次元の美しさだ。
「あぁ…階段で!」
「そうそう!鮫島さん、如月の事、外人だと思ったらしいよ」
「え〜、ガッチリ日本人だぜ?」
「ハハ、知ってる。」
如月の髪は、烏の羽根みたいに深い漆黒で、凄い艶。見る角度によっちゃ青く見える気さえする。
アジア人の中でも珍しいくらいの艶髪だ。
それなのに、顔面は完全に西洋のソレを持ち合わせていた。
「鮫島さんに頼んだら、引き受けてくれたんだ。俺たちのドラム。」
「何かとんとん拍子で怖いな」
如月の呟きに、俺は手を組んで言った。
「怖くないよ。…俺が道を作るから、如月は歌えば良い。」
顔を上げると、如月がポカンと俺を見つめている。
「な、何?」
「いや…カッコイイ事言うなぁと思って」
クシャッと笑った如月。
俺は迂闊にもその顔をずっと見ていたいなんて
感じてしまった。
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