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〜宝〜
心臓がバクバクしていた。
如月の顔面力なめてました。
反省しかない。
あんな顔で、俺が言ったとはいえ、誤解するような言葉を間近で呟かないで欲しい。
俺はギュッと胸元のシャツを掴んで平静を装った。
「入ろうぜ。喋ってたらオープンだ」
「あ、うん」
如月は何かを考え込んでる風だったけど、呼ばれて我に返ったようだった。
赤髪の過激なボンテージファッションに身を包んだ女が中から鍵を開けて出てきた。ステッカー塗れのテーブルをガタガタ引きずり、丸椅子に座ると厚底の重そうなニーハイブーツを振り上げ足を組む。このライブハウスで働いているリアラさんだ。
俺は持っていたチケットを2枚彼女に手渡す。すると、リアラさんは、あからさまに如月に向けて胸元を見せつけ始めた。
「井波くん、誰?ヤバいんだけど」
「リアラさんダメだよ。まだ高校生だから手出しちゃ」
もいでもらったチケットをポケットに入れて手の甲を差し出した。
パープルのインクにスタンプをトントンして、ギュッと押さえつけられる。
Cosmosと書かれたスタンプ。
「如月、手、出して」
「あ、あぁ」
如月の奴、完全にリアラさんに圧倒されてる。
俺なんかより遥かに力強く手を引き寄せられ、バランスを崩した如月はリアラさんと見つめ合う。
「ちょっとちょっとっ!どこにいたのよ!こんな子っ!美形とか通り越してない?!あなた人間?!」
「は、はい」
「はいだって!井波くん!!」
「どーみたって人間でしょ。如月綴くんですっ!俺のバンドのボーカルなんで、以後お見知り置きを」
リアラさんはガタンと机に手をついて立ち上がった。
「何それっ!この子歌うのっ!!ヤッバイっ!!いつっ!ライブっ!!チケットよこしなさいよっ!」
「ちょちょちょ!リアラさん落ち着いてっ!おい、如月、先に中入ってろ」
「えっ…あ、うん」
「ちょっと井波っ!」
リアラさんが背中を見せた如月に手を伸ばそうとするのを取り押さえた。
「ライブ、呼ぶから!ね!」
「絶対よ!チケ出来たら一番ね!あんなのが歌ってるなんて知ったらすぐ売り切れるわよ。今日モギリなんかすんじゃなかったぁ〜!鮫島さんでしょ?」
「そ!で、今度から俺のバンドのドラム。固定でね!」
「うっそ!鮫島さんプロはスッパリ諦めて趣味でヘルプくらいならってフラフラしてたのに?!」
「へへ…楽しみでしょ?」
「あの子ね…一体何者なのよぉ〜」
リアラさんはライブハウスの中に向けて熱い視線を投げながらため息混じりに呟いた。
それを見て俺は更に確信する。
如月は選ばれた人間だと。
鮫島さんが言う通り、あっち側に行ける奴だ。
そう、きっとアイツは…
虹の人なんだって。
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