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〜綴〜
中は薄暗く、一段高いステージにはライトが黄色や赤に光っている。
客席はまだ人が少ない。
これがアマチュアの観客席か…
やっぱ大した事ないんだな
それが正直な感想だった。
収容人数がどれくらいなのかは分からないけど、数えられる限り見渡してもまだ十人も居ない。
開いた重厚な扉から井波が入って来た。その後ろからさっきの過激な女が俺に向けて投げキッスとウインクをくれる。
俺がハハッと苦笑いしたら、井波が自分に向けられた笑いでないことに気付いて、ギュンと振り返り女をシッシと手で払った。
「めっちゃエロいな、あの人」
歩み寄ってきた井波にそう話しかけると、嫌そうな顔をして呟いた。
「うわぁ〜、もうリアラさんの毒牙にかかってんじゃん…チョロ過ぎだろ」
俺は一瞬カチンときて「チョロくて悪かったな!」と言い返した。
「ダメだかんな!」
「はぁ?何がっ」
「だからっ!リアラさんっ!あの人、バンド見る目は肥えてるし、彼女から目をつけてもらったらデビューするってジンクス持ってるくらいだけど…」
「だったら願ったり叶ったりじゃん。だけどって何かあんの?」
「まぁ…ほら、男大好きだからさ…」
「あぁ…俺が遊ばれちゃうって?」
「いや……如月にならリアラさんも本気になるかも知れないな」
「じゃあいいじゃん」
「…いいよ、付き合ってって言われたら付き合う?」
「…」
井波は何だか寂しそうな顔で首を傾げる。
それを見たら何となく黙り込んでしまった。
「好み?ああいう露出多めの」
「…いや…あそこまで殆ど出てたら意外とドキドキしないもんだな。あんな格好してる人初めて見たからビックリはしたけど」
「全身エナメル臍出しスタイルだもんな…まぁ、でもリアラさんはいつもあんな感じだよ」
「ふぅん…でもあのメイクは好きかも」
「メイク?」
「目の周り真っ黒でさ、なんか妖しくない?」
井波は閉まったり開いたりする扉の向こうに見えるリアラという女を見て、小さく「メイクね…」と呟いた。
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