142人が本棚に入れています
本棚に追加
2
2
〜綴〜
コンコン
井波が突っ伏した机を、軽く握った拳の節でノックする。
井波の反応はまるでナマケモノみたいにスローで驚いた。もっとビクッと起き上がるもんだと思ってたのに、こっそり顔をあげる。
目の前に立つ俺をゆっくり見上げてくる顔もナマケモノみたいに見えた。
垂れた目と小さな口。
「…何?」
割と高い声にこめかみがピクッと揺れてしまう。
「あぁ〜…井波んちってさ…タバコ屋じゃん?」
井波は大きな欠伸をしてぐぅ〜んと両手を上げながら伸びをした。
「…だから?」
ボンヤリした感じなのに、冷めたい突き離すような喋り方をする。
「だ、だから…今タバコ…持ってない?」
俺はハハッと乾いた笑い混じりに呟いた。
ジーッとこっちを見て、手のひらを突き出してきた。
「うちはタバコ屋だけど…タバコが欲しいならタバコ代払ってよ…何?その顔」
ぅげぇって顔で引いてる俺を見て井波は満足そうに笑った。
「…ハハ、うっそ。欲しいなら放課後うちに来なよ」
「井波んち?」
「如月さぁ、暇なんっしょ?」
「俺が?」
「いっつもつまんなそうだから。」
俺はだんだん会話の流れが井波のペースになっている事に気付いた。
「…つまらないかどうかは分かんねぇけど…まぁいいや、じゃ、放課後」
「うん」
井波はまた何もなかったみたいに机に突っ伏して眠り始めた。
会話を交わした事は数回程度。
次、数学?とか、多分そんくらい。
俺がつまんなそうって…何でそう思ったんだ?
いつもならかったるいし、よく知らない人なんかと連むのは疲れるから、こんな安易な誘いには乗らない。極端に人嫌いなのは昔からだ。
輪になって、愛想笑いをするのが苦手。
それが自分の短所であり、長所だと思ってる。
一人は嫌いじゃないからだ。
そんな俺が、よく知らない井波の家に…
行く気になっていた。
それはあまりに不思議な感覚。
最初のコメントを投稿しよう!