21

1/1
前へ
/75ページ
次へ

21

21 〜綴〜 「腹減らない?」 問いかけると井波は自分の腹を撫でて「確かに」と呟いた。 「なんか適当に食って帰ろうよ」 井波は素直に頷き、俺達は歩き出した。 澄んだ冴える月の夜で、それでいて胸は熱い。 ファミレスに入って、二人でピザを食べた。 井波は小さな口のくせに大食いで、結局二人で3枚も食べた。 「腹一杯」 「そりゃ、それだけ食べればな」 「あのさ…」 井波は紙ナプキンで口を拭いながら呟く。 俺は水を口にしながら視線だけをやった。 「どんなバンドにしたいとかある?」 漠然とした質問に、思わず瞬きが増える。 「ぁ〜…どんなって言われてもなぁ」 「…まぁ…そうだよな、悪りぃ」 「いや…例えば?井波はどう考えてんの?」 俺の質問にちょっと驚いたような顔でこっちを見る。 斜めにバッサリ切られた前髪から、垂れた目がこっそり俺を覗いた。 「俺は…奇妙なやつ…」 俺は井波の言葉に眉根を寄せた。 てっきりかっこいいヤツとか、楽しい感じとかもっと普通の事を口にすると思ってた。 「き、奇妙って…気持ち悪いとか?」 灰皿にタバコを打ちつけ灰を落としながら俺は多分奇妙な顔になっていたに違いない。 井波はジッと下から俺を見つめ、プッと吹き出した。 「アハハッ!気持ち悪かったら売れないだろっ!」 井波の言葉に身体の力が一気に抜けた。 「なぁんだよぉ〜、じゃあ奇妙ってのは」 井波は頬杖をついて小さな口を尖らせる。 「ぅ〜ん…例えばさ、さっき如月が言ってたじゃん」 「さっき?」 「リアラさんのメイクが良いって。妖しいって。」 リアラさんを思い出すように目を伏せる。 「確かに…あのメイクは好きだな」 「それだよ」 「え?」 「俺達もメイクしてステージに立つとかどう?世界観が変わるだろ?」 「メイクして?男なのに?」 「嫌なら良いんだよ。俺は如月、絶対似合うと思うけどね」 「俺が?」 「そんな顔すんなよ。だれもオカマ目指せって言ってんじゃないんだ。俺の家のCDジャケットにも洋楽で化粧してるバンド結構あったろ?」 「あぁ…そういえばあったな…どんな歌なんだろって気になってた」 「今からさ!やってみない?」 「い、今から?!」 「思ったが吉日って言うじゃん!」 井波は残っていたピザを口に咥えて席を立った。
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!

142人が本棚に入れています
本棚に追加