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〜宝〜
ライブ終わりに、鮫島さんに挨拶もせず如月を家に連れ帰った。
俺は興奮していたんだと思う。如月をライブハウスに連れて行き、やる気に火をつける事に成功した。そうしたら、今度は止めどなく欲が溢れてきた。
細い階段を如月の腕を引きながら駆け上がる。
隣りの母さんの部屋から化粧品を拝借して、如月の顔面にファンデーションを塗りたくった。
「井波何で化粧の仕方知ってんの?」
されるがままの如月はパタパタとパフで頰を打たれながら問いかけてくる。
「あ〜、母さんの見てたから。大体使い方はわかる。」
「見てたって…化粧したかったの?」
「いや、俺の好きなバンドがこういうのしてたからかな、興味はあった。ステージに立つ時、やってみたいなって。あ、一回やった事あるんだ。」
「え!そうなのか?」
「それがさ、ボーカルがブスで、髭濃くて…なんていうか…あれは、そういうおもしろ担当的なオカマみたいになっちゃって…なんかやめようとも言いにくいまま、ステージ上がったんだよ」
「うわぁ…なんか想像ついて怖い。今、俺大丈夫なわけ?」
片目を開く如月。
「もうちょい瞑ってて!今ライン引いてるから!」
「わ、わかった」
両目を閉じた如月の頰に手をかけながらアイライナーを走らせる。
目を閉じたままなのに、化粧を施した如月は怖いくらい綺麗だった。
有名な教会の壁画になってもおかしくないようなゴシック感で、言葉にならないゾクゾクする感覚を味わう。
「…如月、ゆっくり目、開けて」
如月の長い睫毛がゆっくり瞼を持ち上げて、向かい合う俺を見つめた。
少しはにかんで、「どう?」と聞いてくるから、ドキドキし過ぎて視線を逸らしてしまう。
「あっ!やっぱオカマみたいになってんだろ!」
目を逸らした俺に怒る如月に手鏡をズイと押し付けた。
「見てから言えよ!…無茶苦茶かっこいいわ!バカ!」
「ば、ばかって…うっわ!すげぇ…井波メイク上手いな」
如月は自分の素材がいいだけなのに気づいていないバカだった。
「上手いわけないだろ…」
呆れたように呟くと、如月は俺の頰を両手で挟んできた。
ビックリして身体が固まってしまう。
「今度は俺がやってやるよ!」
「…へ?」
「まず、コレだろ?」
パフをもって近づいてくる如月。
「ちょ!ちょっと!俺は自分で出来るよ!」
「え〜…つまんないなぁ…じゃあさ、井波もしてよ。どんな風になるか見たい!」
ワクワクしている如月が俺に心を許しているようで、ただテンションが上がってしまった。
いつも鋭い眼光で人を近づけない彼の印象はもう俺の中には残っていなかった。
俺のメイクが終わるまで、それをジッと見ていた如月。
「俺手順覚えた!」
「マジ?早くない?ハハ」
二人並んで鏡の前に立った。
ギターを担いだ俺と、何故か中学の時のリコーダーを持った如月。
その図は凄く面白かったんだけど、如月はノリノリだ。
だけど、俺は完全に見えていた。
俺達は売れる。
なぜってそれは…
如月は、この世の性別を超えたような美しさだった。
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