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〜宝〜
翌日、メンバーに招集をかけた。
ドラムの鮫島さん。
ギターの舟木。
ベースの凪野。
ボーカルの如月。
「おまえさぁ、昨日挨拶くらいして帰れよ」
「あ、ごめん！ちょっと初心者居たからさ、終わったらすぐはけたのよ」
鮫島さんのお叱りに笑って誤魔化す。
「初心者って俺のせいかよ」
如月がそれを拾って食いついてくる。
「まぁまぁ、で、今日の招集は顔合わせで良いんだよね」
凪野が場を和ませようとニコニコ間に割って入ってくる。
舟木は相変わらず無表情で膝を抱えて座っていた。
「そう。一応このメンバー固定でバンドを組むっ！目指すはプロ！」
「……プロ」
舟木が呟く。
凪野がパァッと明るい声で「じゃあさ！じゃあさっ！方向性はっ！」と言った。
俺と如月は目を合わせる。それから、三人に向けて俺が話し始めた。
「全然未定なんだけど…俺と如月はメイクしたりする予定。俺のイメージなんだけど、ゴシックロックっていうか…奇妙な…奇抜な？…まぁ、見た目に関しては各々の自由かなって。髪立てたり…メイクも強制するつもりはないし」
三人は俺の話を真剣に聞いて、頷いた。
「俺はバッキバキに髪立てるわ！」
鮫島さんがニッと笑う。
「じゃあ俺達もそうしようよ！」
凪野が舟木に言うと、舟木は「いいよ」と静かに笑う。
「ワクワクするなぁ〜！あっ！曲は？そうだっ！如月くんの歌も聴きたいよ！」
「おっ俺？」
「おまえ以外誰が歌うんだよ」
鮫島さんが如月に突っ込む。
「曲は楽器隊が作る。暫くはその制作期間かな。」
鮫島さんはグンと伸びをして呟いた。
「俺は渡された曲をアレンジする程度だぞ。作曲は無理だ。」
「勿論、それでいいよ。アレンジを期待してるんだ。デモは簡単な打ち込みしか入れないつもりだからね」
俺がそう言うと、舟木がそっと手をあげる。
「どんな感じでもいいの？」
「あぁ。ジャンルは気にしなくていい」
「おい、歌うの俺だろ？そんな何でもかんでも歌える自信ないぞ」
如月が困った顔をするから、俺はうんと頷いた。
「大丈夫。如月が唄えば、何とかなるから」
「はぁ？！だから何だよ、その自信」
「予感だよ、予感」
如月は嫌な顔をした。
「ま、井波が大丈夫っつーなら大丈夫だ。なっ！」
鮫島さんが如月の肩をバンバン叩いた。
如月はまだ慣れない鮫島さんに苦笑いだ。
「あと、詞も如月メインにお願いしたい。曲作った奴が書いてもありだけど、俺はやっぱ詞はボーカルかなと思うから」
舟木がまた静かに手を上げる。
「伝えて欲しいイメージを如月くんにお願いするのは？」
「全然あり！例えば…夏の失恋のイメージで書いてとか…」
「あ、あのさ！俺、詞なんて書いた事」
「大丈夫！」
「っ…」
如月は案外押しに弱い。
根が優しいからだ。
俺はスタンドに立てかけてあったギターをとり、胡座をかいた膝の上に置いてジャーンとならした。
「如月、今流行ってるあの曲ちょっと歌える？」
「ぁ〜…サビ…だけなら」
「じゃ、弾くからさ、歌って」
「今っ？！」
「今っ！」
「だってみんな居るし」
「何言ってんだよ！昨日行ったライブハウスで歌うんだぜ？何人入ると思ってんの」
如月はウッと顎を引き、仕方ないと姿勢を正した。
スゥッとブレス音がして、それに合わせてアコギを鳴らす。
歌い始めた如月の声は、どこか透明で、どこか澄んでいるのに、切ない気配を感じるような闇に沈むような声色で、愛しくて、何度も繰り返し聴きたいような強い衝動が胸の深い所で静かに根を張った。
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