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25 〜綴〜 家に帰って来た俺は、机の引き出しにあった大学ノートを取り出した。 数ページは英語の授業か何かの板書を写した物が走り書きされている。途中で飽きたのか、宇宙船のようなモノが落書きされていた。 そいつを容赦なく破り捨てて、真っさらなノートにした。 シャーペンを握り、トントンノートの隅を叩く。 詞… 歌詞… 歌… 俺は何を歌うんだろう… 頭が真っ白になった瞬間だった。 玄関が開く音。 暫くして、父さんの怒号が響き、母さんが謝るような声がする。 ガタン バタン ドタンと何かが倒れたか、落ちたか… そんな音は聞き覚えがあり過ぎて、俺は大きな体を出来るだけ小さくした。 肩を窄め、デスクチェアに両足を引き上げ膝を抱く。 胎児のように小さく丸まって、膝に額を強く押し当て、大きく息を吐く。 バクバクする心音は幼少からのすり込みで怯えている。 あぁ…俺はここから逃れたい 何も出来ない無力さを呪いながら… でも母さんを置いてなんて逃げられるわけない 俺はそこまで臆病じゃない 臆病じゃ ない? あぁ…嘘ばかりだ。 俺は何も出来ない子供で、こんな小さな屋根の下の世界でさえ救えない。 自分は母さんを笑顔に出来ない。 いつも陰に隠れて逃げ回っている。 例えば道化のように、涙を流したメイクに溺れながらでも、大切な人を笑顔に出来るような強さがあったなら… 強さ… ふと浮かんだのは、しっかり前を向いた井波の目だった。 井波が一瞬、ピエロに見えた。 井波の強さは、俺の弱さを… 救う気がして…。 アイツはどんな曲を作るんだろう。 アンプに繋いでいないギターが鳴らすガシャガシャという音が、どんな風に鳴るんだろう。 俺はノートを閉じてベッドに横になった。 一階では小さな戦争が、二階の施錠さえ出来ないオンボロシェルターでは、小さな夢が生まれつつある。 井波の音を聴いたら 俺は何か書けるだろうか。
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