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〜宝〜
その日の放課後、社会人の鮫島さん以外のメンバーで俺の家に集まった。
昨日徹夜しただけあって、少しばかりは披露出来るメロが上がっていたからだ。
録音した音源を三人に聴いて貰う。
プレイヤーから鳴る音源に目を閉じてリズムを取る凪野。
ジッと音を聴く舟木。
如月は…
「おっ!おいっ!何でっ!」
思わず床にあったティッシュを三枚引き抜き如月の目に押し付けた。
「へっ…ぁっあぁ…俺、泣いてる?」
嘘だろ…自分が泣いてるの気付かないとかあんのかよ。
「悪い…何か、思ってたより凄くて、ビックリしたのかな」
かなって…情緒大丈夫か?
確かに内面を抉り抜けるような音!とか考えたりしたけど…
「つづちゃん、感受性豊かなんだね」
凪野が懐っこく笑顔で如月に微笑みかけた。
「つづちゃん…」
如月がティッシュで目を押さえながらポカンと呟く。
舟木が珍しくプッと小さく吹いて笑った。
「えぇ〜いいじゃん!綴だから、つづちゃんで!」
凪野は本当に社交性がある。故に人の懐に飛び込む勢いに助走はなかった。
俺は恐る恐る如月をもう一度見た。
「アハハッ、良いよ。好きに呼びな。」
そういって美し過ぎる目を細めて笑うと、舟木がモジモジしながら「つづちゃん」と続いた。
こいつらぁ〜〜っっ
朝の電車で、如月にときめいていた女子高生の時と同じように何となく苛立つ。
「何がつづちゃんだよ!浮かれてんなよな!」
幼稚臭い嫉妬が剥き出しになって口を突いて出たような気がして顔が火照るのが分かった。
「何?井波は呼んでくんないの?」
誰もが見惚れてしまう顔面がズイと簡単に距離を詰めてきた。ドキッと鳴る心臓の音が怖くて、俺は身体を引いた。
「はぁ?よっ!」
「よ?」
「よっ…呼ぶっ…かもねっ!!」
フイと顔を逸らしたら、凪野が「素直じゃないなぁ」と苦笑いした。
うるさいっ!うるさいっ!
「ま、呼び方なんて何でもいいよ。それより、コレ…昨日作ったのか?」
如月はプレイヤーを指差して呟いた。
「徹夜だよ」
俺より先に舟木がボソリと呟く。
「あぁ!だから今朝電車に滑り込みだったわけね」
如月は納得とばかりに頷いた。
「まだデモだから、こっからだよ」
「デモ…」
「デモは試作段階の音源。未完成な状態のをさす。だから、こっから、鮫島さんのタイコが入って、コイツらの楽器が入って、勿論アレンジが入ってくるから、雰囲気が変わったりすんのは良くあること。今はその段階だよ。」
「…へぇ…変わっちゃうのかぁ…何か、それはそれで惜しい気もするな。」
如月は手にしていたティッシュをクルクル丸めてゴミ箱に放り投げた。
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