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28 〜綴〜 井波の曲を聴いて、純粋に涙が出ていたのには自分でも驚いた。 音楽は勿論出来上がった物しか聴いた事がない。 ギターとよく分からない機械音が混ざった歌詞のない音源はまさにこれが初めてだ。 三人が談笑しながら、曲をいじっている様子を、ボロボロのソファーに胡座をかきながら眺めていた。 こうして見ていると、凪野はいつも笑ってるなとか、舟木はマジで無表情だけど、些細な事に感情が漏れる瞬間が面白いなとか、井波は真面目に音楽が好きで不思議な奴だな、なんて感じている自分がいた。 不思議な空間だった。 涙が出たのも、仲間を微笑ましく見守る俺も、今までにない感覚だったせいだ。 「如月、これにさ、歌詞つけれそう?イメージとか湧く?」 「…へっ…ぁっあぁ…歌詞…かぁ…」 「仮タイトルだけはあんのよ」 「仮?」 井波は頷き、紙とペンを手に取った。 古い勉強机に向かい、ゴリゴリ文字を書き殴っている。 「コレッ!」 紙の上部を持ち、俺たち三人に向けてそれをズイと突き出した。 首を伸ばすようにしてその文字を覗き込む。 "ムーン" 凪野が腕組みして頭を捻りながら「ムーン?って…月?」と言った。 井波は斜めにザックリ切られたアシンメトリーの前髪から覗く瞳で俺をチラリと一瞥してから頷いた。 「如月には夜が似合う…どうせなら暗闇から始めたい」 井波の言葉に息を呑んだ。 "暗闇から始めたい" そこから……俺は… 飛び立つのか?
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