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3 〜綴〜 チャイムが鳴って、ガヤガヤと生徒が教室から流れ出ていく。 一番後ろの井波の席を振り返ったら、そこにはもう奴は居なかった。 「ゲ…マジかよ…」 思わず立ち尽くしていると、教室の後ろの扉が開いて井波が顔を出した。 身体が井波の席を向いて、顔だけ扉に向いた俺はどうしょうもない顔をしていた気がする。 井波は俺を指差してケラケラ笑った。 「ママに置いて帰られた子供みたいな顔しちゃって!ハハハ」 一気にムッと口を尖らせる俺。 「行こーぜ」 井波はそんな俺なんてお構いなしに廊下をチョイチョイと指差し促してくる。 怒った感情が一気に萎え、調子が狂うと頭を掻きながら井波の後を追った。 カンカンカンと踏み切りの音がよく響く。 井波タバコ店と書かれた看板。 店の横から入って、細い階段を登る。 「親は?」 「仕事」 「店は?」 「ばあちゃん」 「ふぅん…」 そんな会話をしながら2階に着いた。 一番奥の部屋のドアに"宝のへや"と書かれた木のプレートがかかっている。 「ハハ、これ俺んちにもある。小学校ん時、なんだっけ?作ったよな」 「うん。…自然学校?忘れた」 首を捻りながら、ドアを開けて入って行く井波。 中は6畳一間くらい。ボロボロの直置きソファーがあって、古い学習机に、本棚。 壁にはポスターが貼られている。 その下には、ギターが二本スタンドに寄りかかり立て掛けられていた。
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