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〜宝〜
如月が帰ってから、舟木と凪野も音源をつめると俺の部屋から退散して行った。
楽器隊の二人の評価も悪くなかった。
今から肉付け作業が始まる。
そう腕を組み、意気込んだ瞬間だった。
携帯が鳴り、腕を組んだままの姿勢で画面を覗き込む。
如月だ。
そっと画面を開くと、そこには歌詞らしきものが書かれていた。
俺はそれをジッと見つめる。
机に無造作に漂ったムーンと平仮名で書かれた紙が、俺の興奮で舞い上がるんじゃないかと思った。
それくらい、如月の歌詞は闇の中でもがいていて、俺にとって理想的なまでに"如月"だった。
電話をかけると、如月は照れくさそうに「読んだ?」と言った。
「読んだ。」
自信なさげな沈黙が降りて、その後、小さなため息が聞こえてくる。
「俺は…何か出来るかな」
意外な問いかけに、ゾクゾクしてしまった。
「出来ないわけないだろ。…これ、良いよ。凄く良い」
電話越しなのに、如月が安心したような笑みを浮かべた気がした。
それに合わせて、ドクン ドクンと鳴るのは、俺の血液。
「なぁ…如月」
「ん?」
優しい響きの返事に、仮タイトルを書いた紙を握りしめた。
グシャッと紙の角が手のひらを刺す。
「…いや…何でもない」
「なぁんだよ。本当はダメだしなんじゃないのか?」
苦笑いするように話してくる如月。
「バーカ、違うっつーの!ライブする為にはまだまだ曲がいるからさ!詞の方も頼むぜ」
「なぁんだ、催促?欲しがるねぇ〜」
「あったりまえだろ!どんどん合わせていくから宜しくっ!じゃーなっ!」
「おぅ」
電話を切って、ベッドにうつ伏せに倒れ込んだ。手には紙を握ったままだ。
俺は一体如月に…何を言おうとしたんだろう…。
血液が騒いだのは
どうしてだったんだろう。
目を閉じたら、瞼を走る赤い血液が見えた。
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