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33 〜綴〜 凪野と舟木を両脇に並べてスタスタ歩く。 さっき掴んでいた井波の腕や首の細さに少し動揺していたのかも知れない。 身長はほんの少し俺が高いくらいなのに、井波は体の線が細かった。 ボンヤリしている俺をグイグイ引っ張るくせに、華奢なんだよ! 何故だかそんな事が頭をしめて変だと思った。 振り返ると、何もなかったみたいにシラッとした顔の井波がついてきている。 本当に良く分からない奴だ。 そうこうしながらも、俺達四人は鮫島さんの言うスタジオに到着した。 sound Blueと書かれた看板。 学校の近所にこんな場所があるなんて知らなかった。まぁ、いつもなら先輩とかのバイクの後ろに乗ってヤニ吸ってるだけだったしな…。 「何考えてんの?」 井波が険しい顔で看板を見上げる俺を睨む。 「いや…sound…」 「いいからっ!早く入るぞっ!」 先に入った凪野や舟木の後を追うように井波に背中を押されて中に入った。 受付があって、長髪の男が咥えタバコで顎を奥に振った。 どうやら奥に行けという事らしい。 井波はカウンターに手を振りながら「市川さんサンキュ」と言った。 俺は頭をペコリと下げた。 市川さんは妙な顔で俺を眺めながら口のタバコを指先に受け、灰皿も見ないままねじ消していた。 「あの長髪、市川さんての?」 俺が聞くと、井波はハハッと笑いながら、「如月が綺麗過ぎて馬鹿みたいな顔してたな」と言った。 「女みたいに言うなよ」 突っぱねるようにボヤくと、井波はピタッと立ち止まり、振り返るなり俺の胸を指先でトントンと突いた。 「如月は自分を分かってない!誰もかれもが振り返ってる!その綺麗な面を二度見も三度見もする為だ!分かるか?毎日見てる俺だってまだ見慣れない!」 そう言い終わると、また前進する方に向き、「美貌の無駄遣いだ」とぼやく声がした。
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