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34 〜綴〜 美貌の無駄遣いって何だよ… 反応しようにも、アウェイな気がして口を噤んだ。 目の前に見た事がない分厚いドアが出て来る。 どうやら二重になっているようだ。 大きめのレバーを下に下げると、ドアが分厚さとは裏腹に軽く開いていった。 「閉めて」 最後に入った俺に井波がそう言った。 レバーを上げると、ギュッと密閉空間になるような手応えがある。 背中で突然トコトコトコッと連続した太鼓の音。ドンドンと重い響きが混じって、シャンシャンと規則正しい金属音がしたかと思うと、シャ〜ンッ!と何度かシンバルが鳴った。 振り向くとそこには鮫島さんがスティックを回しながらこっちを見ていた。 「よぉ!いらっしゃい」 何の店だよ… そう感じたのも束の間、皆んなそれぞれに楽器を担ぎ始めた。 「え!え!な、何で?」 「あぁ…鮫島さんに昨日楽器預けてたんだよ。どうせ車だし、積んどいて貰おうって」 ストラップを頭から被りギターを担いだ井波が飄々とそう言った。 シールドをアンプに繋いだら、あっちでもこっちでも電子音らしきジィーッという音が耳を掠めた。 舟木がジャーンとギターを鳴らす。 その音のデカさにビクッと肩を窄めると、向かいの凪野が指でズンズンズーンとベース音を這わせた。 ライブハウスで聴くより音が近い。そしてデカい。 井波を見ると、ギターのてっぺんのネジをクルクル回しながら一弦一弦弾いていく。 「何?それ」 「チューニング」 素っ気ないくらい簡単に答えたかと思ったら、井波はヘンテコな音を繋げてギターを鳴らし始めた。他の三人とは比べ物にならないくらい…下手に聴こえる。 こ、コイツ弾けるんだよな? 一瞬戸惑いはしたが、落ち着いたら童謡なんかを軽く弾き始めた。何だ…弾けるんじゃん。 やっぱり変な奴だ。 「よっしゃ!じゃ、一発合わせますか!」 井波がジャーンとギターを鳴らすと、鮫島さんが、ドンドンドンッと足を踏んでバスドラッてヤツを返事みたいに鳴らす。 凪野と舟木もオッケーと楽器で合図した。 俺は真ん中で馬鹿みたいに突っ立っているわけで…。 カンカンとドラムのスティックがカウントを取ると、爆音が身体を包んだ。 一瞬目を瞑るような音のデカさ。開いた視界には、変なステップを踏む井波。淡々とリズムをキープする舟木。ユラユラ首を揺らし、にこやかな凪野。真剣な表情の鮫島さんがいた。 グルッと見渡しながら、今演奏されているのが昨日のデモの音だと気づいた。 慌てて鞄からノートを取り出す。 その曲は何度もループしながらアレンジを変えていく。 何度も演奏されるから、俺もマイクスタンドにささったマイクを握った。 井波が頷く。 俺はスゥッと息を吸い、仮タイトルがムーンだと言う曲に息を吹きかけた。
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