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〜綴〜
ずっと良い。
バイクに乗って悪さしてるより、喧嘩したり、壊したりするより、遥かに…ずっと良い。
迫ってくる音に埋もれないように声を張った。
張って、張って、思うように言葉を詰めてみたり、のばしてみたりして、デモより歌メロを多少変えたりした。
楽しいと思えた。
「休憩!」
井波が両手を顔の前でブンブン振って音を止める。
「ゴホッゴホッ」
「大丈夫かよ」
馬鹿みたいに声を張り上げたせいで喉がガサガサした。
「歌い方勉強しないとダメかもな…慣れもあるけど、今のままじゃライブ一本で声がカスカスになっちゃうよ」
井波の言葉に驚いて、自分の喉を掴んだ。
放心状態の俺に、凪野が嬉しそうに話しかけてくる。
「歌詞っ!めちゃくちゃ良いねっ!!つづちゃんの色が出てるよ!カッコイイ!」
「うん、俺も好きだな」
舟木がボソリと付け加える。
鮫島さんが後ろから「妖しいメロディにピッタリじゃねぇの?」
俺は喉をさすりながら俯いた。
サラサラと髪が顔を隠す。
鼻の奥がツンと痛んだ。
自分の迷いや闇を打ち明けて、のたうち回っていて良いんだと肯定されたようだった。
トンと肩に井波のゲンコツが当たってくる。
「言ったじゃん、凄く良いって。」
井波がニッコリ笑うから、思わず抱きしめてしまいたい感情が体の奥から湧いた。
ギュッと井波の腕を掴んだまでで、その気持ちにブレーキをかける。
「如月?」
「ぁ…いや、うん…ありがと。サンキュ、サンキュ!」
掴んだ腕をバンバン叩いた。
「痛い痛いっ!折れるわ!バカッ」
井波は俺からサッと離れてギターを盾にする。
俺はといえば、どさくさに紛れて、さっきの勢いをかき消そうとしていた。
井波を抱きしめたいなんて…ちょっと…いやいや、かなり変だ。
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