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36 〜綴〜 ずっと良い。 バイクに乗って悪さしてるより、喧嘩したり、壊したりするより、遥かに…ずっと良い。 迫ってくる音に埋もれないように声を張った。 張って、張って、思うように言葉を詰めてみたり、のばしてみたりして、デモより歌メロを多少変えたりした。 楽しいと思えた。 「休憩!」 井波が両手を顔の前でブンブン振って音を止める。 「ゴホッゴホッ」 「大丈夫かよ」 馬鹿みたいに声を張り上げたせいで喉がガサガサした。 「歌い方勉強しないとダメかもな…慣れもあるけど、今のままじゃライブ一本で声がカスカスになっちゃうよ」 井波の言葉に驚いて、自分の喉を掴んだ。 放心状態の俺に、凪野が嬉しそうに話しかけてくる。 「歌詞っ!めちゃくちゃ良いねっ!!つづちゃんの色が出てるよ!カッコイイ!」 「うん、俺も好きだな」 舟木がボソリと付け加える。 鮫島さんが後ろから「妖しいメロディにピッタリじゃねぇの?」 俺は喉をさすりながら俯いた。 サラサラと髪が顔を隠す。 鼻の奥がツンと痛んだ。 自分の迷いや闇を打ち明けて、のたうち回っていて良いんだと肯定されたようだった。 トンと肩に井波のゲンコツが当たってくる。 「言ったじゃん、凄く良いって。」 井波がニッコリ笑うから、思わず抱きしめてしまいたい感情が体の奥から湧いた。 ギュッと井波の腕を掴んだまでで、その気持ちにブレーキをかける。 「如月?」 「ぁ…いや、うん…ありがと。サンキュ、サンキュ!」 掴んだ腕をバンバン叩いた。 「痛い痛いっ!折れるわ!バカッ」 井波は俺からサッと離れてギターを盾にする。 俺はといえば、どさくさに紛れて、さっきの勢いをかき消そうとしていた。 井波を抱きしめたいなんて…ちょっと…いやいや、かなり変だ。
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