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37 〜宝〜 鮫島さんの安定したドラミングと、凪野のベースは相性が良い。 俺の無茶苦茶に遊び放題のギターと、カッチリ曲をガードしてくれる舟木のリズムギターも申し分ない組み合わせだ。 そこにヴィジュアル最強の如月がこれを歌う。 言いようの無い充足感。 一曲しか仕上がりに近づかないまでも、如月は他の曲にたいして鼻歌混じりに数曲ある音源の歌メロをすっかり覚えてしまったようだった。飲み込みが早いというか…天は二物を与えたっつー感じだった。 後は歌詞待ち…十曲に満たない数でもライブは十分やれる。 スタジオ練習が終わり、スタジオオーナーの市川さんに挨拶しながら金を払う。 如月に振り返り「今日は如月いらないから。」と言った。 みんなにならって財布をケツポケットから出していた如月は首を傾げる。 「なんで?俺も使ったじゃん」 「今日、スタジオ代いるって言ってなかったし、ほら、歌詞も仕上がってないわけだから、本来ボーカルは次からの参加が妥当なわけ!だから、今日は」 「俺も払うっ!!」 如月は鋭い眼光で睨みつけてくる。 変なとこ真面目なんだよな。頑固だ。 「ぅ〜ん…じゃ、皆んなにジュース一本ずつでどう?」 俺の提案に如月はムゥっと唇を突き出し小さく頷いた。そのちょっと不貞腐れた顔でさえ、人を惑わすから困る。もともと口角が猫みたいにクルッと引き上がってるのが可愛いく見えるから怖い。 ゾロゾロとスタジオの外に出て、壁に沿って置かれた赤いベンチに座った。 その真隣に置かれた自販機に札を入れて、如月が皆んなに「選んで」と声をかける。 「つづちゃんありがとっ!」 凪野が嬉しそうにはしゃぐ。 「ありがと」 舟木もチラッと如月を上目遣いに見て呟いた。 「年下に奢られるのは気が引けるなぁ、ま、じゃ、今回だけ!サンキュ」 鮫島さんは首にかけたタオルで、額の汗を拭いながら如月の肩をポンと叩いた。 ベンチに座ったままの俺を見下ろして、如月が顎をクイと自販機に向ける。 俺は首を左右に振って「いいや」と断ったら如月が俺の腕を掴み立ち上がらせた。 自販機の前に立たされて、背後から抱きつくようにへばりついてきた如月はククッと笑いながら俺の両手首を掴んで「ロシアンルーレットッ!」とボタンを手のひらでまとめて押させてきた。 「うわっ!バカっ!もったいねぇっ!」 手首を持たれ、勝手にバンと自販機についた手はガコンと何かを排出した。と同時に派手な電子音が鳴って、またガコンと缶が落下する音がした。 長い足を折って屈んだ如月が受け口から二本の缶を取り出した。 「大当たり!」 こっちにニッと笑いながら缶を差し出してくる。 ルーレットがついた自販機は当たりを点滅させていて、暫くしたらまたクルクルライトを回転させ始めた。 「大当たり!」そう言った如月を見て、俺は改めて凄い大当たりを引いたんじゃないかと笑ってしまった。 そして、如月がロシアンルーレットした缶ジュースは、まるで罰ゲームのように不味いジュースで、怒りを通り越してメンバーで分け合い大笑いした。
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