142人が本棚に入れています
本棚に追加
39
39
〜宝〜
あれから、何回もスタジオに入った。
ライブを早くやりたい気持ちはどうやら皆一致しているようで、凪野は鮫島さんと二人でリズム隊としてスタジオレッスンしたりするほどだった。
舟木に至っては、いつもマイペースで受け身な人間なのに、俺にそっと音源を手渡して、「つづちゃんに歌って欲しい」と数曲バラードを用意してきた。
目を丸くした俺に、舟木は少し慌てて「ダ、ダメかな?俺も曲…」
「バーカッ!良いに決まってんだろっ!俺と全然タイプが違うのが良いよ!どんどん作って良いって!」
バァーンと背中を叩いたら、舟木は珍しくはにかんで「良かった」と嬉しそうに呟いた。
舟木の音源はアルペジオが綺麗で、まさに月夜をバックに物悲しくする如月の横顔が想像出来た。
スタジオに入って舟木の作ったバラードを歌う如月に何度息を呑んだかしれない。
如月は、本当に美しいと思う。
言葉にすると、馬鹿みたいに恥ずかしいけど、あの青光りしそうな漆黒の艶髪の下に隠れた瞳は、ただ、ただ、オーラの塊としか言い様がなかった。
そして、如月の書く詞は、どうしようもなく辛そうで、痛そうで、闇の世界を表現するに相応しい仕上がりだった。
そうこうしているうちに年が明け、三学期が始まっていた。
チャイムが鳴る。
如月は放課後になると、決まって俺の机に突っ伏して窓側を向き居眠りをする。
トイレから戻った俺は、そんな夕焼けにキラキラ照らされた如月の髪を掬った。
冷たくて、ツルツルしている。俺の癖毛と大違いだ。
「人間じゃないみたいだな」
小さく呟いたら、如月の瞼がピクッと揺れた。
触っていた髪をパッと離す。悪い事なんてしてないのに、心臓がバクバク破裂しそうだった。
「ぃ…」
如月が苦しそうに何か呟いた。俺は慌てて屈み、机の高さに目線を落とす。
「き、如月?」
心配して声を掛けてみたら、如月は手を伸ばして、俺の肩をガシッと掴んだ。
「ぃ…なみ…腹…減った」
うつ伏せのまま呟く如月の内容に、俺はストンと力なく尻餅をついた。
何言い出すかと思ったら…腹かよっ!!
「…う、うちでなんか食えば」
「…ぅん…行く」
最初のコメントを投稿しよう!