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4 〜綴〜 「洋楽?好きなの?」 ポスターを眺めながら呟く俺。 「う〜ん…まぁ、なんでも聴くよ。テクノとかニューウェーブ?…耳触りが良ければね」 「テ…テク?ノ?…」 井波が何を喋っているのかよく分からなかった。 音楽といえば、歌謡曲じゃないのか?くらいにしか知識がない。 初めて目の前にしたエレキギターは、何だか傷だらけだったけど、妙にカッコよく感じて、それでいて井波が遠く、知らない人にも見えた。 「ハハ、良かったらその棚のCD貸してやるよ。ジャケで選ぶのも楽しいよ。ハズレも多いけどね」 井波は本棚にぎっしり並んだCDを一枚取り出した。 「コレ、俺のお気に入り」 あんまり笑わない井波がニッと笑った。 俺は突き出されたCDを手に取り、サンキュと短く呟いていた。 「座れば?」 合皮の黒いカバーが擦り切れたソファーには三人肩を寄せ合えば座れそうな大きさ。 俺はそこにゆっくり座った。 視界が低くなってからも、井波の部屋をキョロキョロしてしまう。 井波はといえば、立て掛けてあったギターを手に俺の隣にドサッと座り込んだ。 ベベンと弦を弾いた音は、テレビから聴こえる良い音ではない。 そんな事はお構いなしに、井波はガシャガシャ汚い音しかならないギターを弾き続けた。 「それってそんな音なの?」 「え?」 夢中だったと言って良い井波に声をかけると、驚いたように下から見上げるように上目遣いでこっちを見た。 「いや、それ…ベンベン鳴ってるけど…」 「あぁ…アンプ繋がないとエレキはこんなもんだよ」 「はぁ…アン…プ」 「ここにさ、シールドぶっ刺して反対をコイツに刺す!」 井波は箱型のスピーカーらしき頭をポンと叩き、線を勢いよく剣のように差し込んだ。 ジィーッと電子音がして、井波が弦に触れたら、思ってた音がジャラ〜ンと響いた。 アンプを通して鳴った音は背骨に何か触れたみたいにゾクッと心地良く、初めて聴く生音に特別感を感じた。 「すっげ…」 「ハハ、弾いてみる?」 「いや…俺は…楽譜読めないし」 「俺も読めないよ?」 「マジ?読めなくても弾けるんだ?」 「コード覚えたり、タブ譜とかもあるし、続けてりゃそのうち楽譜も読めるだろって思ってる」 「…へぇ…なんか、凄いな」 「凄くないよ」 俺はここに来た目的をすっかり忘れてギターを抱き抱える井波の話に興味津々だった。 「やりたい事があるのは凄いよ。俺なんて何もないからね」 苦笑いしながら話した内容にハッとしていた。 こんな事を話すつもりなんてなかったのに。 一瞬沈黙が降りて、井波は「ふぅん…」と言ってから俺を一瞥すると、何でもないようにまたギターを鳴らし始めた。 何となく、他の奴らなら笑われるとかそんな事を身構えたのに、井波に変化はなかった。 肩の力がスッと抜けて、俺はダランとボロボロのソファーにもたれかかっていた。 これが脱力というやつだろうか…。 家の中でも感じないような、確かな安堵をボロボロの3人がけソファーでじんわりと感じている。 隣では、上手いのか下手なのか分からない井波のギターが鳴っていて、俺はその知らない曲に、ボンヤリ意識を委ねた。
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