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〜宝〜
マジで飯食いに来ただけかよ…。
なんだか挙動不審な如月を見上げる。
ゴキュッなんて緊張したように喉を鳴らして、顎を引く辺り、何かあやしい。
「待てよ。何かあったんじゃねぇの?倒れそうな程腹減らして…」
「…あぁ…昨日も家、揉めてたからさ…リビングに降りれなくて…そんで朝まで寝れなくて…朝飯食わずに来たら学校でずっと寝てて…まぁ、あれだよ、昼も起きたら購買しまってた…みたいな?」
如月が家の事を喋ると、胸が詰まる。
俺は一回俯いた。それから、胡座をかいた膝辺りを触りながら呟いた。
「…早く…出ようぜ。こんな田舎」
励ますような言葉は、違うのかな…とか、いやいや、ここは励ますべきなのか?とか迷いはあった。だけど、如月を連れ出せるのは俺だという自負もあった。だから、もう一度如月の綺麗な目を見て言ったんだ。
「行くだろ?東京」
東京の隣接県とまで近くもない片田舎のほんの少しだけ開けたこの土地で、如月を腐らせるつもりは毛頭ない。
如月は俺の言葉に、苦笑いだか何だか分からない微笑を浮かべた。
「…行くだろ?」
それが嫌で、もう一度問いかけた。
如月は、ニッと左の口角を上げて笑うと言った。
「井波はいつも一直線だな」
如月の言っている意味は良く分からない。けど、俺たちは前に進むんだと如月に伝えたい。伝えて、そうしなきゃならないと確信するまで言葉を咀嚼して飲み込めばいい。
「ポジティブなんですよ。息してりゃ、明日は来ちゃうんだから」
如月は口元をポリッと長い指で掻いた。
「…フフ…」
「何」
如月が意味深に笑うからその顔を見上げると、ちょっと嬉しそうに言われた。
「…東京、行こうな」
一瞬、瞬きが出来なかったせいで、眼球が乾く。ジワっと滲みかけた視界を誤魔化すように明るく振る舞った。
「ま、その前に地元のライブハウスCosmosを超満にする!だな」
「…任せとけって」
「おっと…随分と自信がついて来たんだな」
煽ってみると、如月は控えめに呟いた。
「五人ならイケる気がするだけだよ。じゃ、マジ歌詞追いつかないから帰るわ」
「ぉ、おぅ」
トントントンと軽快に階段を降りていく音が遠ざかる。
ベッドから立ち上がり、ギターを掴んだ。
ジャーンと鳴らしたコードは、如月のクシャッと歪んだ笑顔に似た音がした。
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