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44 〜綴〜 息が上がっていた。 十曲目になる頃には声が掠れて上手く出なかった。 歌ってこんなに体力消耗するのかよ 楽屋のパイプ椅子に肩を揺らしながら汗だくで座っていると、頭にタオルがバサッと被された。 見上げると、凪野がニッコリ笑いながら、自分も同じように頭からタオルを被り言った。 「今度からタオル必須アイテムだね!つづちゃん汗だくじゃん」 「ぁ、ありがとう」 「俺あんまり汗かかないんだけど、今日はリハよりライティング凄い強かったよね!多分PAの笹野さん、つづちゃんに惚れたんだよ〜」 「惚れた?」 俺がポカンと呟くと、凪野は更に続けた。 「つづちゃん綺麗だからさ!自覚ないとこがまた良いんだけど、俺、見た事ないよ?つづちゃんみたいな綺麗な男」 「喜んでいいのかな…」 「もちろん!ボーカルはバンドの顔だよ?俺、ちょっと優越感あったもん」 ライブ終わりにも関わらず饒舌に語る凪野の後ろから井波が現れた。井波は涼しい顔をしながら、凪野の肩を抱きニヤリと笑う。 「裏、やばい事になってる」 俺は初めて尽くしで意味が分からないと顔を顰めた。 親指を出口の方に向けて井波が続ける。 「出待ちがかなり居るっぽい」 「マジでっ?!初ライブだよ?!」 凪野はビックリしたとばかりに目を丸くする。 そこへヨロヨロと舟木がトイレから戻って来た。 「だっ大丈夫かよ?!」 頭にタオルを被ったままパイプ椅子から立ち上がり、舟木に歩みよった。 「襲われたぁ〜」 「はぁっ?!」 「つづちゃんと会わせろって、危うく身ぐるみ剥がれるとこだったよ」 「そ、それはなんか…悪りぃつーか…怖いっつーか…」 舟木の両肩を掴んで支えながら怖くなる。 「人気商売だかんな!覚悟しろよ!つづ!」 鮫島さんが汗を拭きステージ衣装から私服に着替えながら言った。 鮫島さんも相当に汗をかいている。後ろから感じた迫力を体感した後なので、納得だった。 「打ち上げ、楽しみだな」 火の付いていないタバコを咥えた井波がヒャヒャッと悪戯に笑った。 その顔は、幸せそうで、無邪気で、それでいて…それでいて。
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