142人が本棚に入れています
本棚に追加
45
45
〜宝〜
ライブハウスCosmosの近所の繁華街にある居酒屋には、大人数のバンド関係者がごった返していた。
自分のバンドの打ち上げは初めてだ。
鮫島さんのバンドの打ち上げには何度も来た事があるけど、自分のバンドっていう響きにテンションが高くなっていた。
隣には、誰もが見惚れてしまう如月がバーボンなんて飲んでる。
高校生のくせに…って俺もビール飲んでるけどさ。
「酒、強いの?」
問いかけると、如月は苦笑いして話し出した。
「悪い奴らとつるんでた時に修行した」
「はぁ?」
如月はニッと左の口角を引き上げる。
「飲むじゃん」
「うん」
「吐いちゃうわけ」
「あぁ…」
「で、自分で片付けてさ、また性懲りも無く飲み始めてるの」
「…もう酔ってるじゃん」
「そうそう、もう酔ってるよな」
「ヒャヒャヒャ!何だよ、それ!」
酒の入っていた俺も如月のよく分からない話で楽しくなってしまい、よく笑った。
如月の肩は大きくて、いつの間にか寄り掛かりながら俺は意識を手放しかけていた。
ユラユラ ユラユラする。
フワフワ フワフワする。
如月のゆっくり喋る話し方が好きだ。
まるで子守唄のようで、俺はすっかり潰れてしまった。
「ゔぅ…」
「おはよう」
「………っ!??」
飛び起きたら自分の部屋のベッドに居た。
見慣れた部屋のボロボロのソファーに胡座をかいて音楽雑誌を読んでいた如月がよっ!と手をあげる。
「な、んで…」
あまりに間抜けな言葉が溢れた。
「…ハハ、覚えてないんすか?」
茶化すように話す如月。
「もしかして…潰れたのか?俺」
「まぁね。最後、俺の膝でグゥグゥ寝てたよ」
「ぅわぁ〜…さいっあく」
「可愛かったけど?」
音楽雑誌をめくりながらそう呟いた如月。
俺はシーツについていた手をギュッと握った。
「可愛いって…んだよ…ぁ…てか、帰ってない?家…」
「…ん〜…うん」
読んでるんだか、読んでないんだか、ぼんやりした表情で雑誌をめくる如月。
「平気?」
「…男だからね」
雑誌から顔を上げた如月の苦笑いに、俺は俯いてしまう。
「母さんには連絡したよ。心配ないから」
如月は俺を気遣うようにそう付け加えるとヨイショと言いながら立ち上がった。
「帰んのか?」
「うん、井波が起きるまでと思ってたから。」
「めっ飯食って帰れよ!」
「…寝起きで食えんの?」
怪訝そうに顔を歪める如月。
「…食えるわ。」
膨れっ面で答える俺に、如月はハハッと肩を竦めて優しく笑った。
最初のコメントを投稿しよう!